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  • 微生物の規格基準についての今後の検討課題

    〔フィリピン〕
    ――フィリピンを訪問した時のことを教えてください。
    印象に残ったのは大腸菌群の取扱いに関する話題ですね。日本では、生食用の冷凍魚介類については大腸菌群の基準が設けられていますが、欧州では(大腸菌群ではなく)大腸菌の基準が設けられています。一般的に「大腸菌群は人に由来する糞便汚染の指標」といわれてきましたが、ここ20~30年で大腸菌群が自然界に存在する菌であることは明らかになっています。この工場の関係者は「大腸菌が検出されることはないが、大腸菌群が検出されるかどうかは運次第だ」と話していました。日本もこの現状も踏まえて見直す必要があるのではないでしょうか。
    サルモネラ属菌についても同様のことが言えます。日本では水産加工品に関するサルモネラ属菌の基準はありませんが、米国や欧州では「水産加工品にはサルモネラ属菌のリスクがある」というのは一般的な認識です。日本国内で水揚げして加工・流通・消費する水産物であれば、サルモネラ属菌の問題はないかもしれません。しかし、海外から輸入する水産物の中には、サルモネラ属菌の汚染の可能性がある生け簀などで養殖されている場合もあります。日本では「サルモネラ属菌は鶏や卵の問題」という認識が一般的かと思いますが、それは国際的な認識でいえば遅れています。国際的な考え方との整合性を図っていく必要性があるでしょう。

    ――東南アジアの工場では、対米・対欧州の輸出に対応した検査体制も構築されているようです。そうした施設を見ると、どうしても「日本の試験法」と「世界の試験法」の違いもありそうですが、いかがお考えですか?
    日本の試験法は長い時間をかけて築き上げてきた経緯があるので、いきなり抜本的に改定するのは現実的には難しいと思います。「国際的な動向も踏まえながら、少しずつ部分的に改定していく」というやり方になるのも、やむを得ないことでしょう。しかしながら、「日本と世界の試験法に違いがある」という認識は持っておかなければ、将来、「日本の試験法に対応できなくても(日本に輸出できなくても)、米国や欧州に輸出すれば問題ない」と考える国が出てくるかもしれません。
    また、欧州では最終製品の微生物基準だけでなく、process hygiene criteria(工程衛生規格)※が設けられている食品もあります。日本では食品の規格基準にprocess hygiene criteriaの考え方はありませんが、欧州へ輸出する工場では対応しなければなりません。そうした違いについては把握しておく必要があると思います。

    ――セミナーでは「日本の検査法に関する情報は、どこで得られるのか?」という質問もありましたが。
    日本の検査法に関する情報は、意外と入手しにくいのが実態のようです。例えば食品衛生検査指針の英語版も出ていないので、各企業が取引先から教えてもらっているのが現状のようです。しかし、その取引先の担当者が、試験法とその他の検査法の関係性などをきちんと理解していない場合もあるようです。検査法に関して議論するための基盤を共有する必要があると感じました。

    ――日本ではHACCP制度化の動きがありますが、食品安全や食品衛生の考え方について国際的な整合性を図ることは、今後の日本の課題の一つかと思われます。
    先ほど話した水産物の大腸菌群やサルモネラ属菌の基準に関する議論については、海外との整合性を検討する必要があるでしょう。一方で、必ずしも海外に合わせることだけが正しいわけでもありません。例えば、米国や欧州では腸炎ビブリオ食中毒は増えていますが、日本では平成13年に規格基準を見直した頃から、食中毒は顕著に減少し、最近ではほとんど起きていません。「腸炎ビブリオの対策は日本を参考にしてはどうですか?」と言ってよいのかもしれません。
    日本の規格基準や試験法などに関しては、国際的な整合性がとれていないものもありますが、それらを抜本的に変えるのが難しい状況であることも理解できます。しかし、もし日本が今後、食品の輸出を促進していくのであれば、欧米の基準や試験法に合わせていく議論は進めていかなければなりません。日本の食品衛生の分野がこれまで積み上げてきた文化や考え方を活かしながら、良い要素は残す、変えるべき要素は柔軟に変えていく、という対応ができればよいと思います。

    ――ありがとうございました。

    【用語解説】 Process Hygiene Criteria(工程衛生規格)

    欧州では欧州規則 No. 2073/2005によって、次の2種類の微生物規格が設定されています。
    (1)食品安全規格(Food safety criterion):  
    ■市場に流通する食品製品/バッチの許容可能性を決める(措置:回収)。
    ■対象微生物:Listeria monocytogenes、Salmonella、Staphylococcal enterotoxins、Enterobacter sakazakii(Histamines)
    (2)工程衛生規格(Process hygiene criterion)
    ■市場にある製品ではなく、製品の工程が許容できる機能であることを示す。工程に適用される。  
    ■その数値以上の場合には、食品法を遵守している工程の衛生を維持するため、改善措置が必要とされる。
    ■汚染を示唆する数値を設定する。
    ■対象微生物:Enterobacteriaceae、E. coli、Coagulasepositive Staphylococci、生菌数  
    〔参照文献〕
    1) General Guidance for Food Business Operators EC Regulation No. 2073/2005 on Microbiological Criteria for Foodstuffs / FOOD STANDARDS AGENCY
    2) グローバル化と食品微生物規格の考え方(Microbiological Criteria Related to Food in the Context of Globalization of the Food Safety Management System)、豊福肇先生(山口大学共同獣医学部)、日本食品微生物学会雑誌(Jpn. J. Food Microbiol)、32(2)、124-130、2015
     

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