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  • ――対策の基本がわかりました。ありがとうございます。 ところで、カンピロバクターは他の食中毒菌に比べて、食中毒の事件数が圧倒的に多いですが、カンピロバクター特有の対策の難しさはどこにあるでしょうか?

    カンピロバクターは、他の菌と比較して、いくつか特徴的な性質があります。例えば、微生物は、酸素が必要かどうかで「好気性」(酸素がある状況で増殖する菌)、「嫌気性」(酸素があると増殖できない菌)といった分類ができますが、カンピロバクターは「微好気性」(酸素濃度が3~15%程度の環境下であれば増殖できる菌)という性質があります。つまり、通常の大気(酸素濃度は20%程度)では生育できません。また、増殖可能な温度帯は30~46℃で、30℃以下では増殖しません。そういう意味では、一般衛生管理がしっかりとしている食品施設では、増殖する可能性は低いです。しかも熱に弱いので、加熱をしっかりとすれば食中毒のリスクはかなり低減できます。一方で、栄養状態が悪い環境、他の菌では生育できないような環境でも(増殖はできないにしても)なかなか死滅せずに生き残ることも知られています。
    また、この菌は大気中の酸素に曝露されると、“VBNC”(viable but non-culturable、生きているが培養できない)という、非常にやっかいな状態になる性質があります。微生物検査法では基本的に培養を伴いますが、「培養できない状態」になってしまっては、正確な菌数は測定できません。よく「カンピロバクターは少量で感染する」といわれていますが、実際のところ、培養では測定できない菌も存在するのですから、実際の感染菌量は(培養で測定された菌数よりも)多いのかもしれません。このVBNCという特性はカンピロバクターに特有の現象ではありませんが、カンピロバクターによる食中毒や感染症の研究を難しくしている要因の一つです。このVBNC状態になるメカニズムは現時点では解明されていません。「いったんVBNCになった菌を元の状態(培養可能な状態)に戻す方法があるのか?」「VBNC状態の時は、ヒトに対する感染性はあるのか?」なども不明です。

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  • 米国における食肉・食鳥肉HACCP規則の考え方

    ――このような難しさがある中で、海外ではカンピロバクターのコントロールはどのようにしているのですか?

     1999年に米国農務省(USDA)は食肉・食鳥肉を対象としたHACCP規則として“Pathogen Reduction/HACCP”(PR/HACCP、病原菌削減/HACCP)(※3)を規定しました。これは鶏のカンピロバクター、肉牛の腸管出血性大腸菌O157などのハザードについて「コントロールの目標値」を設定し、いくつかの衛生管理を組み合わせて、その目標値に近づけるという考え方です。食鳥処理場でいえば「この処理をすれば、カンピロバクターがゼロになる」という管理手段は、現時点では存在しません。ですから、例えば「菌数を10分の1、100分の1に減らす」といった目標を設定して、各工程で衛生管理を徹底することで、最終的に出荷する際のカンピロバクターを低減させる(増殖させない)、ということを考えます。

    ※3 米国農務省(USDA)、Pathogen Reduction/HACCP(PR/HACCP)規則
    https://www.fsis.usda.gov/wps/portal/fsis/topics/regulatory-compliance/haccp/pr-and-haccp-guidance-documents/pathogen-reduction-haccp-guidance

    ――非常に合理的な考え方ですね。日本のHACCP制度化でも参考になるのではないでしょうか?

     ただし、この考え方を運用するには、「どのような管理方法が、どのくらい有効なのか?」「どの工程がカンピロバクター対策において重要なのか?」を示すデータが不可欠です。例えば「チラー水(食鳥処理場における、鶏肉用の冷却水)でどのように処理したら、菌数はどのような変動を示すか?」「どのような除菌剤を採用すれば、菌数はどれくらい減るのか?」といったデータがなければ、「HACCPに取り組む効果は本当にあるのか?」ということが見えてきません。
     米国の場合、「どのような衛生管理に取り組んだら、病原微生物がどのような挙動を示すか?」を調査した、膨大なデータが蓄積されています(これを「ベースラインデータ」と呼びます)。このデータがあるので、PR/HACCP規則を施行した効果も明確にわかっています。
     しかしながら、現時点で日本にはベースラインデータの蓄積がありません。これからデータを蓄積する必要があります。米国のデータをそのまま日本に転用することはできません(例えば日本と米国では気候や風土などがまったく違うためです。)。日本国内でも、地域によってまったく異なるベースラインデータになるかもしれません。こうしたベースラインデータの構築・集積は、日本におけるHACCP制度化に際して、最も欠けている要素の一つではないでしょうか。

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