――カンピロバクター食中毒を日本で予防するために今後の課題はどのようなことがありますか?
本来、HACCPでは、日常的な検査、モニタリングのための検査などは、事業者自身が自主的に実施するのが基本です。しかし、カンピロバクターの検査は、時間やコストがかかります。培養の際には、微好気の環境を維持しなければならないので、手間もかかります。事業者が自主検査に努める姿勢は大切ですが、行政によるサポート体制の構築も必要かもしれません。
先ほど述べたように、今後の課題として、フードチェーンの各段階(農場、食鳥処理場、流通、飲食店など)での汚染実態の調査が必要です。継続的なモニタリングにより、ベースラインデータを蓄積することが求められます。しかし、そのためには検査法を確立しなければなりません。NIHSJ法やISO法、食品衛生検査指針に記載された検査法など、さまざまな検査法がありますが、同じ検査方法で集めたデータでなければ、データ間の比較は行えません。検査法の確立、自主検査のための簡便・迅速な検査法の開発も、今後に向けた課題といえるでしょう。
――農場や食鳥処理場で利用できる、効果的なカンピロバクターの低減手段の開発も求められます。
先ほど紹介したバクテリオシンやファージ、ワクチンなどは、今後の研究成果に期待したいところです。それ以外にも、例えば厚生労働科学研究では過酢酸製剤の効果を検証する研究が行われました。ただし、過酢酸製剤は(カンピロバクターに対する)効果は確認されていますが、温度や濃度などに注意を払わなければ、刺激臭や発がん性物質の発生などの問題も指摘されています。あるいは、カンピロバクターは乾燥に弱いので、EUではエアチラー(冷風を吹きかける管理法)を採用している施設もあります。しかし、エアチラーの効果を確実なものにするには、ある程度のラインの長さが必要になることから「インフラ面でコストがかかる」などの課題も指摘されているようです。
我々のグループでも、国内外の様々な組織と協力しながら技術開発に取り組んでいます。例えば、超音波を用いた処理方法の実用化などに取り組んでいます。EUでは「食肉の除菌にはできるだけ薬剤を使いたくない」という意向があるので、この技術が実用化できれば、今後の可能性に大きな期待が持たれます。
カンピロバクターはこれまで長きにわたって食中毒を減らせていない、非常に厄介な菌です。もしかしたら、我々のような研究者には、これまでの既成概念を取り払った、これまでとまったく異なるアプローチでイノベーティブな技術開発が求められているのかもしれません。
――ありがとうございました。