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●リステリアは世界共通の重大なリスク ~日本でも食品汚染は起きている~

    リステリア食中毒は、欧米では重大なリスクとして認識されています。米国では毎年2500人がリステリアに感染し、500人以上の死者が出ていると推定されています。高い致死率が特徴の一つです。健康な人であれば風邪のような症状で済みますが、免疫の弱い人(妊婦や乳幼児、高齢者など)では重篤な症状を示すことがあります。患者の約40%が妊婦といわれ、流産や死産などを引き起こす可能性もあります。
    リステリアの主な汚染源は家畜の乳や糞便で、原因食品としてはナチュラルチーズなどの乳製品や食肉製品が知られていますが、家畜とは無関係な食品(水産加工品、野菜など)を原因とする食中毒も起きています。これは、リステリアが工場内の広範な環境で生息・増殖できるためです。そのため、特にRTE食品(ready to eat food、消費者が加熱などを行わずに、そのまま喫食する食品)の製造工場では加熱後から包装工程の間で二次汚染が起きないよう、環境の洗浄・消毒の徹底や、微生物検査による環境調査などの対策が重要となります。
    米国やEUでのリステリア・モノサイトゲネスの規格基準はRTE食品について設定されていますが、日本では、非加熱食肉製品(生ハムなど)とナチュラルチーズだけです。日本での食中毒事例は、2001年(平成13年)に北海道で発生したチーズを原因食品とする1件のみといわれています。そのため、「日本ではリステリア食中毒はほとんど起きない」と考えている人もいますが、それは誤りです。日本国内の調査でも、明太子やイクラ、ネギトロなど水産物のRTE食品からリステリア菌が検出されることがあります。厚生労働省によると、国内のリステリア感染者は100万人あたり1.4人(2008~11年の平均)で、これは欧米と大差ない水準です。また、リステリア食中毒は潜伏期間が長いことも、原因特定を難しくしています(潜伏期間は発症までに平均で約3週間)。
    こうした状況を考えると、今後は日本でもリステリアは重大なリスクとして避けられない課題となるでしょう。

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●米国政府は疫学調査に次世代シーケンサー導入 ~原因不明の食中毒が解明できる時代に~

     米国では2013年に「GenomeTrakr(ゲノム・トラッカー)プロジェクト」という公共機関の疫学解析の技術開発が始まりました。これは、FDA(食品医薬品局)やUSDA(農務省)、CDC(疾病管理センター)、NCBI(国立生物工学情報センター)が提携した、次世代シーケンサー(NGS;Next Generation Sequencer)を用いた食中毒の原因究明の仕組みです。プロジェクトの開始以降、原因が解明できた食中毒事件数は急激に上昇しています。
     GenomeTrakrプロジェクトは、まずはリステリア食中毒を対象に実施されました。NGSを用いることで、これまで未解決だった食中毒の原因が解明できるようになっています。例えば、2014年にオハイオ州でレタスからリステリアが分離され、リコールが行われました。一方で、そのレタスを原因とする食中毒が起きているかどうかは不明でした。しかし、NGSで解析した結果、患者からの分離株と、レタスからの分離株が近似株であることがわかりました。これを基に患者の聞き取りを行ったところ、この工場のレタスを喫食していたことが判明しました。
    日本の行政機関では、まだNGSは導入していません。しかし、米国ではリコールされた食品の菌株から得たNGS情報を基に、食中毒事例(散発事例を含む)の原因食品が次々に解明される時代になっています。従来の16S rDNAによる同定では「リステリア・モノサイトゲネスである」というところまでしかわかりませんが、NGSでは「どのような特徴を持つリステリア・モノサイトゲネスの菌株か」というところまでわかります。もちろん、NGSを導入しなくても, 反復配列多型解析法(MLVA)法など、病原性大腸菌については信頼できる手法もあります。今般の食品衛生法改正により、日本では当面MLVA法が各都道府県の広域食中毒の解析手法として統一されることになっています。しかし、今後、NGSの普及は世界的に加速すると予測され、近い将来、日本でもGenomeTrakrプロジェクトのようにNGSを活用した取り組みが始まることを期待したいと思います。

【用語解説】次世代シーケンサー(NGS)
    原理は様々であるが、基本的には対象とするゲノムを制限酵素で100~300塩基程度に切断する。これらすべての断片を1つの反応系の中で一斉に同時反応を行う。サンガー法の100~1,000倍以上のスピードで、またコストも100分の1~1,000分の1以下で一挙に塩基配列の決定が可能である。食品微生物学分野においても、2010年以降、広く用いられ始めている。

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●最後に ~病原菌検査によるリスク管理の時代へ~

     国はHACCP制度化により、最終製品の検査だけではなく、工程管理も求めています。そこでは病原菌管理も例外なく求められていくでしょう。すでに世界の先進的な国や企業では、NGSなどを活用して迅速に食中毒の原因調査を実施しており、未解決(原因不明)の食中毒が特定される時代になっています。日本の食品関係者は、世界が今、そうした状況にあることを理解した上で、単に最終製品の安全性を示すだけではなく、いかに製造履歴を担保するかを考えなければなりません。そのためには、食中毒菌を含めたリスク管理をしていかなければなりません。

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