スリーエム ジャパン主催セミナー「解説!食品衛生行政の最新動向とその実践方法」レポート
簡便・迅速な微生物検査法の意義と導入効果
~HACCP制度化対応、人手不足対策などに有効なソリューション~
     2020.3.17

  • セミナー会場の様子

    スリーエム ジャパンは2019年10月・11月に東京、大阪、名古屋でセミナー「解説!食品衛生行政の最新動向とその実践方法」を開催しました。

    本セミナーでは一般財団法人日本食品分析センターの諸藤圭課長に微生物試験法を選定する際の留意点などについて、東京農業大学の五十君靜信先生に微生物試験法における妥当性確認の意義や重要性について講義していただくとともに、すでに3MTM ペトリフィルムTM 培地を採用いただいている井村屋株式会社の加藤光一部長に、その狙いや導入効果について語っていただきました。

  • 一般財団法人日本食品分析センター 微生物試験課 課長  諸藤 圭 氏

    微生物試験法の選定と導入に伴う検証

    一般財団法人日本食品分析センター
    微生物試験課 課長
    諸藤 圭 氏

     

●試験室の信頼性確保の要件~微生物の試験結果はなぜ安定しないのか?~

 微生物試験室が信頼性を確保するためには、常に「信頼される試験結果」を得られるような仕組み作りが必要です。しかしながら、微生物試験の対象は生き物なので、「時間の経過に伴い微生物の数や状態が変化する可能性がある」「食品の影響を受けやすい」といった側面もありますし、試験担当者の技能の影響も受けます。信頼性確保は重要な命題ですが、「何が微生物試験の結果に影響を及ぼすか?」を把握しておく必要があります。
 信頼される微生物試験の結果を得る(試験室間で結果が異ならないようにする)ためには、考慮しなければならない様々な要件があります。端的に言えば、以下の7点に集約されます。

試験検査の信頼性確保のための主な要件
 


●食品事業者は目的に合わせた適切な試験法を選択すべき

食品事業者が、自主検査における試験法を選定する際には、「試験の目的(顧客の要求は何か、何を知りたいのか、どの程度の精度が必要か)」を考慮する必要があります。顧客から試験法が指定されている場合は、その方法に従うことになるでしょう。
顧客からの指定がない場合は、表に示すような公定法、標準法(参照法)、参考法、暫定法の中から、自社の目的を満たす試験法を選択します。基本的には、「妥当性確認のレベル」が高い試験法が望まれ、該当する公定法か標準法がある場合は、その方法を選択します。公定法や標準法がない場合は参考法を、参考法もない場合は暫定法を選択することになるでしょう。暫定法を選択する場合は、目的に応じて妥当性確認を行う必要があるかもしれません。

なお、公定法は、食品の規格適合性を確認するために定められた方法ですが、必ずしも「妥当性確認された方法である」とは言えない場合があります。公定法の「妥当性確認のレベル」は、試験法によって様々です。

表 食品微生物試験法の分類


●自主検査でISO法の実施は困難~妥当性確認された迅速・簡便法で省力化を~

国際的には、ISO法は「公定法」として位置づけられています。しかし、食品事業者がISO法を実施するには、現実的に困難な場合も考えられます。その主な理由として、ISO法は試験法だけが規定されているのではなく、関連する支援規格(例えば、試験で使用する機器や試験室の環境、試薬、培地の管理、不確かさの推定、妥当性確認などに関する規格など)も導入する必要があることや,ISO法で指定された培地が日本では入手困難なことなどが挙げられます。特に、ISO法は試験法が煩雑で、手間と時間がかかることは大きな理由と言えます。以上のような背景から、「妥当性確認された迅速・簡便法」が注目されています。

(関連記事はこちら:工程管理(HACCP)の検証の検査では 「目的にあった試験法」 を選択する ~バリデーションされた簡便・迅速な代替試験法は有効な選択肢~)

●迅速・簡便法を採用する前に、検証(verification)が必要

欧米では、公定法や標準法(参照法)との妥当性確認がされた迅速・簡便法は、標準法(参照法)として受け入れられています。そのため、欧米では迅速・簡便法の普及が進んでいます。日本は諸外国と比べて、迅速・簡便法の普及は遅れているように感じますが、適切に導入すれば試験業務の省力化・効率化、さらには試験室の信頼性確保など、様々なメリットが期待できます。
迅速・簡便法を採用する場合、事前に「その方法を適切に実施できるか、試験対象食品に適応できるか?」という検証(verification)が必要になります。実際の食品中に対象菌が存在するなら、従来法と迅速・簡便法の結果を比較すればよいでしょう。実際の食品中に対象菌が存在しない場合には、「食品に対象菌を接種して、従来法と迅速・簡便法の結果を比較する」という実験を行えばよいでしょう。


  • 東京農業大学 応用生物化学部 教授 五十君 靜信 先生

    微生物試験法における妥当性確認の重要性と
    試験法選択の考え方

    東京農業大学
    応用生物科学部 教授
    五十君 靜信 先生

●試験室は“信頼性”が命!~「試験法の信頼性」と「組織の信頼性」~

試験室が信頼されるためには、「試験法の信頼性」は極めて重要な命題となります。例えば「食品中に病原菌が存在しない」ということを試験結果で証明するためには、「誰もが認める信頼性の高い試験法」を用いなければなりません。それは、すなわち「妥当性確認された試験法」を採用することであり、国際的には「ISO法との互換性がある方法」を採用するということです。
 ただし、「妥当性確認された試験法」を採用するだけでは、試験室の信頼性は確保できません。試験室が「精確な試験が実行できる環境が整備されている」ということも示す必要があります。そのためには、内部精度管理や外部精度管理に取り組むことも求められます。


●自主検査は公定法にこだわる必要はない

微生物試験法の選定に際しては、目的適合性(fitness for purpose)という考え方が極めて重要です。結果の利用目的や利用方法、検査の実施者の能力、さらには検査に要する時間やコストなどを考慮し、適切で無駄のない方法を選択する必要があります。
目的に応じて、公定法、標準法(参照法)、参考法、暫定法の中から選ぶことになります。例えば、目的がコンプライアンスの確認(食品衛生法で定められた規格・基準に対する適合性の確認)であるなら、その試験は公定法で行わなければなりません。
しかし、工程管理のモニタリングや検証が目的であるなら、公定法で行う必要はありません。第三者機関による妥当性確認を受けた簡便・迅速なキットも、十分に目的を満たすことができます。簡便・迅速キットを使う場合は、必要に応じて専門の検査機関に「正しい試験が実施できているか?」を評価してもらうことで、試験室の質管理、信頼性確保につながります。具体的な方法としては、例えば「適切な頻度(例えば年1回など)で、自社と外部機関で同じ検体を試験して、結果を比較する」「定期的に外部精度管理に参加する」などの方法があります。


●迅速・簡便法で試験室の信頼性向上につなげる

そもそも公定法とは、必ずしも「公的な文書(日本の場合は厚生労働省の省令・告示・通知など)で示された試験法で検査する」という要素だけではなく、「精確な試験が実行できるように、組織的な管理体制が確立されている」ということも担保しなければなりません。それは、内部精度管理および外部精度管理を実施していることが必須要件ですが、それだけで組織体制の信頼性を保証するのは、極めて難しいことです。実質的には、ISO/IEC 17025の認定を受けることが求められます。しかし、一般の食品企業の試験室がISO/IEC 17025の認定を受けるのは、現実的にはなかなか難しいことです。
そうした背景から、今後の食品事業者の自主検査では目的に合った代替試験法(目的適合性のある簡便・迅速法)を導入することは、現実的な選択肢といえます。ただし、そうした選択や導入がしやすくなるような環境整備(例えば試験法の選択肢を増やすことなど)は、今後の課題となります。


  • 井村屋株式会社 品質管理部 部長 加藤 光一 氏

    品質管理業務の効率化で会社全体の
    レベルアップにつなげる

    井村屋株式会社
    品質管理部 部長
    加藤 光一 氏

●品質管理業務の効率化で会社全体のレベルアップにつなげる

ようかんや冷菓、肉まん・あんまんなどで知られる井村屋様では、2015年から段階的に3MTM ペトリフィルムTM 培地を導入し、品質管理業務の効率化だけではなく、多くの全社的な波及効果が見られています。(関連記事はこちら:井村屋株式会社様導入事例「品質管理業務の効率化で 会社全体のレベルアップにつなげる」)
井村屋様は2017年度に創業120年、設立70年を迎えたのを機に、新たな中期経営計画を作成し、商品・サービス展開の強化や、生産性の向上、コスト削減などを推進しています。会社業績は順調に伸び、製品の出荷量も増加していますが、一方で、微生物検査の検体数は約1.5倍に増加しました。さらに、同社では3工場(本社工場、岐阜工場、松阪Newようかん工場)でFSSC 22000認証を取得するなど、衛生管理にも妥協なく取り組んでいます。FSSC 22000の規格要求事項への対応、HACCPの検証などでも、微生物検査の結果は重要な位置づけとなります。