食品事業者における品質保証業務(第2回)
現場を動かすHACCP、FSMSの実践のポイント

東京海洋大学 学術研究院
食品生産科学部門教授
松本隆志先生

  • 松本隆志氏

    松本隆志氏略歴
    「京都大学農学部食品工学科卒業。博士(農学)。
    株式会社中埜酢店(現Mizkan)を経て、
    味の素株式会社にて食品研究所品質評価・解析グループ長、
    品質保証部部長(食品事業担当)、川崎工場品質保証部長、
    タイ味の素品質保証部長を歴任。2018年10月から
    東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門教授。

  • はじめに

     

    2018年6月に食品衛生法の改正によってHACCPが制度化され、原則として食品事業者はHACCPに基づいた衛生管理が求められることになりました。猶予期間を終えて、2021年6月からHACCPの制度化が施行になり、食品事業者においてHACCPは運用の段階に入っていると思われます。そこで第2回では、HACCPやそれを含むFSMS(Food Safety Management System:食品安全マネジメントシステム)を現場で効果的に運用するための実践のポイントをお伝えします。


  • 最初のHACCPとの関わりと学び

     

    筆者が初めて本格的にHACCPに関わったのは1990年代の終わりです。当時、食品企業で海外事業の技術担当者として、アメリカ法人の工場を生産と品質保証面でサポートする役割を担っていました。ある時、担当の工場がウォルマート社から取引を継続する条件として、AIB(注1)の監査で875点以上(1,000点満点)の取得を課せられたため、アメリカに2カ月間滞在して現地のQAマネージャーをサポートすることになりました。AIBの要求事項にHACCPの要素が含まれ、その土台となるGMPの課題や問題を改善し、製造工程のハザード分析を見直すところから着手しました。QAマネージャーは着任して間もない状況でしたが、製造現場をよく理解しており、包装工程とペストコントロールに問題があることを認識し、これを機に問題を解決しようと考えていました。結果、監査で875点をクリアすることができ、製造現場の理解と目的意識の重要性を学びました。その後、国内食品工場の品質保証の責任者として、GFSI承認認証規格(注2)であるFSSC 22000を導入し、また海外法人で複数の工場を統括する品質保証の責任者としてHACCPを利用して品質トラブルを削減する機会があり、かつての学びが大いに役立ちました。このような経験から得たことを次にまとめました。


  • HACCPやFSMSの実践のポイント1,2)

    ① HACCP・食品安全チームの編成

     

    関係部署から実務に精通した人が集まってHACCPチーム(FSMSの場合、食品安全チーム)が編成され、協力してシステムを導入する、というのが理想です。しかし実際は、品質保証や品質管理等の一部の人が導入を進めて、チームとして機能しない、ということはありませんか。HACCPの7 原則12手順の手順1の前に、システムを導入する工場、或いは組織内で考え方の合意をして参加する部門のメンバーにコミットさせることが有効なシステムを構築するために非常に重要です。そのために、品質トラブルを削減するというような組織としての目的意識が有効であると思います。

     

    ② 一度システムを導入したら終わりではない

     

    導入したけれども、クレームやトラブルが減らないから意味がなかった、とHACCPを否定する取引先がありました。その取引先ではハザード分析をしているのに同様のトラブルの発生が収まらない状況でしたが、HACCPと品質トラブルの是正が結び付いておらず、運用の仕方に原因があるとわかりました。例えば、異物クレームが発生したら、製造工程でのハザード分析を見直し、見落としがあったら管理を強化する、という繰り返しによってシステムの有効性が上がります。また、すぐに結果がでるものではなく、ある程度時間がかかることも認識する必要があります。筆者の国内工場や海外での経験では、目に見える成果が出るまで2年から3年かかりました。

     

    ③ 変更管理

     

    製造工程や製造する製品、使用する原材料等、システムの対象は変化します。食品安全に関わる変更が生じた場合は、ハザード分析を見直し、新たなHACCPプランを作成するなど、変更に対応しなくては効果のあるシステムは維持できません。製品の改廃が頻繁に行われる製造工程では労力がかかりますが、有効なシステムを維持するためには、変更の都度、対応する必要があります。

     

    ④ 一般的衛生管理が土台であることを忘れない

     

    システムが導入されたらCCPは重点的に管理されます。筆者が品質保証の責任者を務めていた6年間で、国内工場と海外法人の工場で発生した重大な品質トラブルはCCPの管理の不備ではなく、一般的衛生管理の不備で発生しました。誰もがCCPの管理が重要であることは認識しています。しかし忘れてはいけないのは、CCPの設定は一般的衛生管理が適切に行われていることを前提にして行われているということです。

     

    ⑤ 投資ありきではない

     

    建屋や施設等でHACCP対応と謳われているのを見かける場合がありますが、本来 HACCP システムはソフト(手法) なので、建屋や施設等を新築・改築時にシステム導入する場合を除いてハードへの投資が先行することはなく、投資ありきではありません。しかし、危害分析の結果、食品の安全性を確保するために投資をしなくてはいけない場合があります。従って、HACCP システムの導入において、必要な投資を効果的にすることができると言えます。先に紹介したアメリカでのHACCPの取組では、食品安全が懸念された包装工程において、充填機を囲うという必要最小限の投資で改善しました。

     

    ⑥ 製造現場で考える

     

    GFSI承認認証規格の中に食品防御に関する要求事項があります。筆者は前職で食品防御に関する社内ルールの作成から関わり、国内の食品工場、次いで海外の工場で対応を進めるという役割を担いました。カメラの設置、製造エリアにおける出入口管理(備品等の持ち込みの管理)、指紋認証、施錠等の様々な対応方法があります。現場の担当と製造現場で対応が必要な箇所を回り、一カ所ずつ最適な方法を取りました。


  • 最後に

     

    意味が分からない文書や記録、審査のための準備等、システムには良い印象を受けないこともあると思います。それだけに筆者は国内の食品工場や海外法人の品質保証の責任者の時に、意味のあるシステムにしようと試行錯誤しました。今回はその時に考えた概要をHACCPとFSMSの実践のポイントとしてお伝えしました。ご参考になれば幸いです。

    注1: AIBはAmerican Institute of Bakingの略で、1919年から活動を開始したアメリカ国内の製パンや製粉メーカーの技術者育成機関です。日本国内では2001年から一般社団法人日本パン技術研究所によって監査が実施されています。
    注2: GFSIはGlobal Food Safety Initiativeの略で、GFSIで定められたベンチマーク要求事項に整合すると承認を受けた規格をGFSI承認認証規格と言います。FSSC 22000やJFS-Cがあります。

    出典
    1) 松本隆志(共著), 『実践 微生物制御による食品衛生管理』「第3編HACCPと現場対応 第2章食品製造工場へのHACCP導入と運用の実際 p.153-169」, 出版:株式会社エヌ・ティ・エス, 2020年12月。
    2) 松本隆志(共著), 『国内外における食品衛生の関連法規と実務対応に向けた基礎知識』「第2章HACCP義務化に伴う影響と関連制度概要 P.27-53」「第5章食品リコール情報の報告制度の創設 p.90-96」, 出版:株式会社情報機構、2020年12月。