大腸菌群は、土壌、水、および動物の腸管など環境中に広く存在する細菌群で、1世紀以上にわたって食品および飲料の生産における不衛生な状態を表す指標菌として使用されてきました。今日、大腸菌群は、多くの食品および飲料産業における衛生指標菌となっています。
大腸菌群という用語は分類学的なものではありませんが、大腸菌群は、乳糖を発酵して酸とガスの両方を産生する特徴により定義される、グラム陰性の芽胞を形成しない桿菌です。大腸菌群と考えられる菌の例としては、Citrobacter, Enterobacter, Escherichia, Klebsiellaなどがあります。
最もよく知られているE. coliは、動物の腸管に常在しますが、他の自然環境にも広く見られます。
特定の菌に対して検査を実施するより、より広い範囲の微生物群である大腸菌群の検査を実施した方が、生産環境の微生物汚染状況を全体的に把握することが可能と考えられます。このような微生物群を「衛生指標菌」といいます。衛生的に管理されている食品工場においては、これらの衛生指標菌は比較的少数です。
大腸菌群の一部は、糞便系大腸菌群とも呼ばれています。糞便系大腸菌群は、古くから煩雑な大腸菌試験法の代替法として実施されてきました。糞便系大腸菌群は、ある程度高温でも生育し、乳糖を発酵してガスを産生する特徴を有しており、日本では今でも一部の冷凍食品や食肉製品などの規格基準となっていますが、今日では大腸菌を酵素基質培地等を用いて簡便に実施できるようになったこともあり、国際的にはほとんど実施されていません。
日本においては、大腸菌群は乳製品、清涼飲料水、冷凍食品など、多くの種類の食品に規格基準が設けられております。なお米国においては、大腸菌群はEPAが飲料水、FDAが低温殺菌乳に関していくつかの基準を設けています。
大腸菌群の測定(3M™ ペトリフィルム™ 大腸菌群数測定用プレートなどの選択培地を使用)は、食品および飲料工場における衛生状態のモニタリングに役立ちます。加工工場において大腸菌群が多数存在することは、衛生状態が管理されていない可能性を示しており、対処する必要があります。
食品に自然に含まれる大腸菌群は、ほとんどの熱処理条件(牛乳の低温殺菌など)で殺菌されます。したがって、加熱処理済みの食品に大腸菌群が存在する場合は、加熱のプロセスが不十分であるか、処理後に汚染されているため、調査して対処する必要があります。