※本事例は月刊食品工場長 2018年7月号に掲載された記事を編集したものになります。
※本事例は月刊食品工場長 2018年7月号に掲載された記事を編集したものになります。
ようかんや冷菓、肉まん・あんまん、ゆであずき缶詰、豆腐などを製造・販売する井村屋㈱では、品質管理業務で2015年から段階的に「3M™ ペトリフィルム™ 培地(以下、ペトリフィルム)」を導入。この取り組みにより、微生物検査の効率化のみならず、営業面を含めた全社的なメリットが得られた。
三重県津市の本社・工場
品質管理部長 兼
同お客様相談ルーム長
品質管理部
品質管理・検査・表示チーム
担当課長
本社所在地 | 三重県津市高茶屋七丁目1 番1 号 |
創業 | 1896年 |
株式会社設立 | 1947年 |
従業員数 | 568人(正社員数、2018年3月31日現在) |
年商 | グループ連結売上高 450億61万円(2018年3月期) |
国内生産拠点 | 本社・津工場、松阪Newようかん工場(三重県松阪市)、岐阜工場(岐阜県羽島郡岐南町) |
2017年度に創業120年、会社設立70周年を迎えた井村屋。同社はこうした大きな節目を機に、特にこの3カ年(15〜17年)では中期経営計画に基づき、商品・サービスの魅力と企業価値の強化、生産性の向上と無駄なコストの削減などを含めたさまざまなチャレンジを進めてきた。スローガンは「NEXT NEW」。その最大の狙いは、新しい食シーンなど新価値の創造と提供を図ることである。
この方針の下、18年3月までの3年間で、売上高で約20%増、経常利益ではほぼ倍増という飛躍的な業績を残すことができた。数多くの挑戦の中でも特に力が注がれ、そしてヒット商品の開拓など多くの成果をもたらしたのが、新商品開発の取り組みだ。
同社・品質管理部の加藤光一部長(兼お客様相談ルーム長)は「実際に発売につながった商品数自体はそれほど多くないのですが、開発のための品質検査の依頼数は例年の約70品目から約115品目へと大幅に増えました」と振り返る。
商品開発への意欲を品質管理部も肌で感じていたことがうかがえる。
業績拡大を続ける一方で、品質管理の現場では深刻な課題が浮き彫りになっていた。
同社の品質管理部では以前から一般生菌、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、サルモネラ属菌、カビ・酵母について自社で微生物検査を実施している。検体は毎日、各工場から届けられる。商品カテゴリーによってそれぞれ異なるが、例えば菓子なら1バッチ(1日では平均8バッチ)ごとに、連続ラインで作られるアイスクリームなら2時間ごとに検体を採取するというペースだ。検査方法は寒天培地を用いての培養法だった。 出荷量は明らかに検査の業務量と連動した。
「出荷量が増えれば当然、検体の数が増えます。例えば一般生菌は、ピーク時で従来の200検体/日から250検体/日に増加しています。併せて納品先が増えるにつれ、営業サイドからは納品先ごとのリクエストに応じた検査依頼も増えるので、カビ・酵母など特定の検査の頻度も多くなりました。特にカビ・酵母に対する検査依頼数は従来のおよそ3倍にも増加しました」と話すのは、同社・品質管理部 品質管理・検査・表示チームの青木伍男ジョゼ担当課長。
検査業務が多忙になったのは、出荷量だけが原因ではない。09年に認証取得したISO22000(本社・津工場)や15年に認証取得したFSSC22000(本社・津工場、松阪Newようかん工場、岐阜工場)の要求項目に沿った検査も行わなくてはならない。そして、先述した新商品開発のための検査が増えたことも、業務量の大幅な増加につながった。
さらに事態をより深刻にしたのが、専任スタッフの新規確保に関わる課題だった。検査業務はそれまで4〜6人体制で回してきたものの、このような状況下では明らかに増員が求められた。しかしながら、定期採用で新たな専任スタッフを確保するのが極めて難しいことを加藤部長は痛感した。
「ここ数年、全社での正社員の定期採用数は30〜40人ですが、製造や開発などに関わる部署の強化が優先されるため、品質管理部にはなかなか人材が配分されません。戦力になる部署に人材の多くが割かれるのは、経営方針としては理にかなうことなので仕方ありません」 従って、業務量の増加と人材不足は毎日2〜3時間の残業、また休日出勤などでカバーするしかなかったという。
こうした状況に対してスタッフを増員せずに改善を図るためには、検査業務を効率化するしかなかった。そこで、15年から順次導入の検討を進めたのがペトリフィルムだった。
ペトリフィルムは乾式できあがり培地の一つで、寒天培地を作製することなく、フィルム状の極薄培地を袋から取り出すだけで直ちに検体試料の滴下に進められる。従って、検査の迅速化が期待できるほか、品質スタッフの作業負担軽減、検査手技の平準化などを図れる。1984年の発売以来、寒天培地に代わる微生物検査ソリューションとして、全世界で累計20億枚以上に及ぶ販売実績がある。
国内では食品衛生検査指針への収載、国際的にはAOACIntl.OMA、AFNORvalidated methodsなどの認証を受けており、検査精度の高さも第三者機関を通じて示されている。
「以前は毎朝、始業の2時間前に出勤して寒天培地を作製しなければならなかったので、その作業がなくなるだけでも負担軽減が期待できました。また一般生菌や黄色ブドウ球菌の検査は、従来の寒天培地による方法では結果判定までに2日(48時間)かかりましたが、ペトリフィルムなら判定までの時間が1日(24時間)に短縮できるため、これも明らかに業務の効率化につながると考えました」(青木担当課長)
同社では、まず一般生菌の検査で一部ペトリフィルムを導入し、並行して従来の寒天培地との比較検証試験を行った。その結果、検査精度と業務効率化の確認が取れたことから、今年4月までに段階的に本導入を進めた。現在は一般生菌と大腸菌群、黄色ブドウ球菌の検査でペトリフィルムを活用している。
品質管理の現場には目に見えるかたちで変化が訪れた。
一部の検査項目を除き寒天培地を作製する必要がなくなったため、青木担当課長は出勤時間を1時間遅くできるようになった。また、時間に余裕ができたことで、若手検査スタッフの支援やアドバイスに回ることも可能になった。さらには、検査ミスに対する抑制効果も得られたという
「寒天培地を用いた方法では、培地の準備からシャーレの取り扱いまで多くの煩雑な作業が必要です。各工程での小さなミスが積み重なり、最終的に検査結果に大きな影響を及ぼすこともありました。それに比べ、ペトリフィルムは作業がシンプルなため、技量による検査結果のばらつきを抑えることができます」(同)
業務の負担軽減だけでなく、検査レベルの底上げにもつながるようだ。
そして、ペトリフィルムを用いた検査の迅速化は全社的なメリットももたらした。実際、主に次のような効果が表れているという。
①同社では全ロットについて検査結果が出てから出荷しているが、従来に比べて出荷までのリードタイムが短縮。これにより、特にSCM部門で
の業務効率化が得られた。
②検査結果が早く出るようになったため、倉庫で出荷を待つ商品スペースがおよそ半分に減った。
③これまでは断らざるを得ないこともあった納品先からの急な出荷要請にも対応できるようになり、営業面での強みを得られた。
④新商品開発のための品質検査対応(保存試験など)が早くなった。
これらを見ても分かるように、検査結果が早く出ることが、戦略的な業務の支援につながっていることは明らかだ。
「資材単価は確かに上がりますが、検査の迅速化により出荷が早くなりますし、新商品開発のスピードアップにもつなげられます。これらのことは全社方針と一致しますので、会社にも理解してもらえました。結果として、この決断は間違っていなかったとの実感があります」(加藤部長)
1.
段階的に導入が進められた3M™ ペトリフィルム™ 培地(以下、ペトリフィルム)。検査の迅速化は現場負担を軽減するだけでなく、全社方針の推進にもつながった
2.
品質管理室を見渡す。作業中の動線や移動距離の改善を図るため現在、インキュベーター(恒温器)など設備の配置についての見直しが検討されている
3.
完全に隔離された微生物検査室。検体試料の接種作業はクリーンベンチで行う
4.
ペトリフィルムの入ったパウチ。開封して取り出せば、直ちに検体試料を接種できる
5.
上部フィルムを持ち上げ、ピペットを培地面(下部フィルム)に対して垂直に保ち、1㎖の検体試料液を培地面の中央に接種する
6.
上部フィルムを静かに下ろした後、スプレッダーで検体試料液を均等に広げる
7.
8.
7,8.
上部フィルムを上にしてインキュベーターに入れ、培養する。
7が一般生菌用、8が大腸菌群用だが、このようにたくさん重ねても、インキュベーター内にはゆとりがある。いずれも判定結果は24 時間で出る
3M™ ペトリフィルム™ 培地の製品ラインアップをご確認いただけます。
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