血管内留置カテーテルの管理においては、血流感染、静脈炎、皮膚トラブル、自己(事故)抜去、血管外漏出、血栓・閉塞など様々な有害事象に接する可能性があります。ここでは以下の4つの有害事象に絞って解説し、対応するフィルムドレッシング材の適正使用などについてご紹介します。
カテーテル由来血流感染(catheter related blood stream infection:CRBSI)とは、血管内に留置されているカテーテルに細菌が定着・増殖し感染に至ったもので、2種類の異なる判断基準があります。
臨床的診断・治療のBSI判断基準:必ずしも血液培養による確定はしていないが、感染の原因が血管内留置カテーテルと推定される血流感染。
サーベイランスのBSI判断基準:米国医療安全ネットワーク(NHSN)のCLABSI判断基準などに基づくもの。血液培養による確定を要する。他の施設と発生率の比較ができる。
カテーテル由来血流感染(CRBSI)を発症してしまうと、治療の中断とカテーテルの再挿入や、抗菌薬などの医療費の増加、入院期間の延長などが発生し、患者さんにとっても医療施設にとっても影響があります。
一方で、ほとんどのCRBSIは発生を予防することができ、それにより患者の安全性向上や医療費削減ができるとの報告があります。
参考文献:
CDC, Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related infections 2011
Intensive Care Med. 2008 Dec;34(12):2185-93.
Journal of Hospital Infection Volume 76, Issue 4, December 2010.
カテーテル由来血流感染(CRBSI)の起因となる細菌・微生物は、皮膚常在菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、カンジダ属が多くを占めます。
中心静脈カテーテルの場合、起因菌の19%~21%をグラム陰性桿菌が占めています。
ICUでは特に抗菌薬耐性が問題となっており、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、今やICUで得られる全ての黄色ブドウ球菌分離株の50%を占めるといわれています。また、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌などのグラム陰性菌や、カンジダ属でも抗菌薬への耐性が増加しているといわれています。>
参考文献:
CDC, Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related infections 2011
カテーテル由来血流感染(CRBSI)の起因となる細菌や微生物は複数の汚染経路を持っており、ここではカテーテル管腔の外側からの汚染と、カテーテル管腔の内側からの汚染に分けて考えてみます。
■カテーテル管腔の外側からの汚染
カテーテル刺入部で皮膚細菌叢に起源をもつ細菌・微生物がカテーテルの外側表面に沿って血管内に伝播した結果としての汚染は、CRBSIの原因の60~65%を占めると言われています。
そこで、カテーテル刺入部の管理が重要になります。
■カテーテル管腔の内側からの汚染
一方で、輸液または接続部から細菌・微生物が侵入し、カテーテルの内側を通して伝播した結果としての汚染は12~30%と言われており、管理をより徹底するにはこうした原因に対しても対策が必要です。
参考文献:
Safdar N, Intensive Care Med 30:62-67, (2004)
Bouza E, The European Society of Clinical Microbiology and Infection Diseases (2002)
カテーテル由来血流感染対策については、様々な団体から各種ガイドラインが発表されています。ここでは、日本国内においてよく参照されている米国疾病管理予防センター(CDC*)が2011年に発行している「血管内カテーテル関連血流感染防止ガイドライン」に沿って、対策を検討してみます。
*Centers for Disease Control and Prevention
手指衛生、皮膚消毒、マキシマルバリアプリコーション、カテーテル挿入部位ドレッシング法、カテーテル接続部の管理についての詳しい対策はこちら
CDCの血管内カテーテル関連血流感染防止ガイドラインは2011年4月に改訂され、最新の研究成果に基づく推奨内容を盛り込んだ内容になっています。
その後、2017年に部分的に改訂されました。改訂対象は、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)含有ドレッシングの推奨で、感染防止効果と有害事象の双方を考慮して策定された内容となっています。
血管内カテーテル関連血流感染防止ガイドライン2011(英語版)
英語版は、2017年改訂内容が反映されています。
静脈炎とは、静脈壁内膜の炎症を指します。症状としては、血管に沿って疼痛・発赤・熱感・腫脹・硬結が生じます。 その原因は、薬剤のpHや浸透圧が原因となって血管内膜の損傷が起こる「化学的静脈炎」、不十分な固定などにより血管内でカテーテル先端が動くことで血管内膜の損傷が起こる「機械的静脈炎」、カテーテルを介して細菌が侵入し血管内膜の炎症を引き起こす「細菌性静脈炎」があります
化学的静脈炎 | 機械的静脈炎 | 細菌性静脈炎 | |
原因 | ・薬剤のpHや浸透圧が主な原因であり、酸性やアルカリ性の強い薬剤を注入すると血管内膜の損傷が起こる。 | ・関節部への留置や不十分な固定など、血管内で留置針が動くことで血管内膜の損傷が起こる。 | ・カテーテル留置により細菌が侵入し、血管内膜の炎症を引き起こす。 |
予防 | ・pHや浸透圧が正常値に近づくように希釈、または滴下速度を落として投与する。 ・pHや浸透圧の数値によっては中心静脈を選択する。 |
・固定をしっかり行う。 ・関節など可動しやすい部位への留置は避ける。 |
・カテーテル挿入時の清潔操作の徹底。 ・適切なドレッシング材の使用により刺入部の清潔保持をする。 ・三方活栓の使用は必要最小限にとどめる。 |
株式会社メディックメディア, 看護技術がみえるvol.2 臨床看護技術 第1版 より引用
末梢、特に前腕にカテーテルを留置した場合、患者がその部位を動かしてしまうことがよくあります。きちんと固定されていないと、血管内でカテーテル先端が動いてしまい、機械的に血管内壁を擦ることで損傷してしまいます。 静脈炎を発症すると、血管収縮により血流が低下して血栓形成を引き起こし、閉塞や血管外漏出の原因にもなります。機械的静脈炎の対策には「カテーテルをしっかり固定すること」が重要です。
静脈炎の症状を早期に発見し対策をとるためには、カテーテル挿入部位を観察するだけでなく、評価し、記録することが重要です。
アメリカやイギリスでは、カテーテル挿入部位を定期的に評価し、「静脈炎スケール」や「VIPスコア」のような指標を用いて記録をつけることが推奨されてきています。
フィルムドレッシング材は透明で観察しやすいのが特徴です。使用中は静脈炎に限らず感染症やその他の合併症の徴候がないか、よく観察してください。異常が見られた場合には、使用を中止し、医師に相談して直ちに適切な処置を行ってください。
フィルムドレッシング材を使用することによって多く見られるのが、発赤・水疱・かゆみ・痛みなどの皮膚トラブルです。これらの原因は、化学的刺激、アレルギー反応、機械的刺激の3つに分けられます。また、一時的な皮膚の反応として、一時的な赤みや浸軟があります。
【原因】
・皮膚に接触している消毒剤や粘着剤の刺激で起こる。接触した部分に限局した炎症反応であることが多い。
【対策】
・消毒薬を完全に乾燥させる。
・皮膚に貼ることに対する安全性が確認されているものを使用する。
ポイント!
・フィルムドレッシング材を貼付する前に、刺入部位の周囲を清潔にし、乾いた状態にする。
・消毒薬等は完全に乾燥させてから貼付する。
■消毒薬が皮膚に接触し、消毒効果を発揮する時間を確保する目安
F. 刺入部ケアの一環として皮膚消毒を実施する。
3. 皮膚消毒薬をドレッシング材を貼る前に完全に乾燥させる;
クロルヘキシジンアルコール溶液は 少なくとも30秒
ポピドンヨード製剤は 少なくとも1分半~2分 (推奨度V)
Infusion Nurses Society, Infusion Therapy Standards of Practice (2016)より和訳引用
※詳しくは皮膚消毒薬の製造販売元の添付文書をご確認ください。
【原因】
・ドレッシング材の材料に含まれているアレルゲンに既に感作されている場合に起こる。
【対策】
・以前にアレルギー反応を起こしたことがわかっている場合には、同じ成分が含まれた製品の使用を避ける。
【原因】
・フィルムドレッシング材を必要以上に伸ばして貼る。
・皮膚に無理な緊張がかかる。
【対策】
・フィルムドレッシング材をできるだけ伸ばさずに貼る。
ポイント!
・フィルムの上からカテーテル周囲をつまみ、よく密着させる。
・右の内頸静脈にカテーテルを留置した場合は患者の顔を左に向け、右頸の皮膚の皺を伸ばし気味にしてフィルムを貼付する。
【原因】
・関節の動きによって摩擦・ずれが生じる部位や皮下組織が特に少ない部位などに、血管内留置カテーテルによる圧迫で生じる。
【対策】
・必要に応じてカテーテルハブ、ルアーロックコネクタ、クランプなどが皮膚にあたる部分に、クッションになるものを使用して圧迫をやわらげる。ただし、清潔に覆うべき部分と、しっかり固定すべき部分とを考慮すること。
●医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)についての詳細はこちら
ポイント!
末梢留置針の刺入部だけを清潔に覆い、ルアーロックコネクタはフィルムで覆わない。下にクッションをあて、上からテープでΩ固定することで固定力を補う。
【原因】
・フィルムドレッシング材を同じ部位に繰り返し貼り、はがす。
・不適切なはがし方をする。
【対策】
・カテーテルの挿入部位は容易には変更できないため、皮膚を傷めないよう、できるだけ愛護的にはがす。
・交換頻度を減らす。
●スキン-テア(皮膚裂傷)についての詳細はこちら
ポイント!
・折り返すようにはがす方が、皮膚に過度な負担をかけずにはがすことができる。
・はがす際にはカテーテルや他の器具を抜去しないように、カテーテルや皮膚を押さえながら注意してはがす。
日本医療機能評価機構による平成28年の報告では、ヒヤリ・ハットの発生件数として、「薬剤」、「療養上の世話」に次いで、「ドレーン・チューブ」に関するものが多くなっています。
ドレーン・チューブ類に関するヒヤリ・ハットでまず思い浮かぶのは抜去です。
患者が不穏状態にあると、衝動的にカテーテルを抜いてしまう可能性があります。なぜ抜去するのか、原因を探ることが解決に結びつくことがあります。
・皮膚トラブルによるかゆみや痛み、不快感がある
・チューブが見えることが気になる
などが考えられますので、原因を取り除く工夫をしてみましょう。
衝動的に挿入物を抜いてしまう可能性がある場合
●「何が気になるのか」、「なぜ抜去するのか」など抜去の原因を探る
・皮膚トラブルによる掻痒感・疼痛・不快感がある
・チューブが「見える」ことが気になる など
●医師と挿入物の必要性について検討する
・点滴時間の短縮、挿入物の早期抜去
●チューブ・ライン類による不快感を取り除く
・皮膚を保護したり、チューブが皮膚に直接当たらないように固定テープなどで工夫する
●チューブ・ラインを確実に固定する
・患者の体動によって容易に抜けないようにする
●チューブ・ラインを患者の視野に入れない
・挿入部位の選択を工夫
・点滴挿入後は包帯で保護し触れないようにする
●チューブ・ラインへの意識をそらす
・早期離床
・日常的な出来事についてナースから積極的に話しかけ、現実感がもてるコミュニケーションを図る
参考:山本沙織,エキスパートナース Vo;.30 No.15(2014)
切り込みなしと切り込みありの比較
切り込みいりのフィルムドレッシング材を使用すると、固定力が高まります。
3M™ テガダーム™ I.V. コンフォート フィルム ドレッシングは、カテーテルやチューブをしっかり保持するための切り込みが入った形状で、末梢静脈、末梢動脈、中心静脈カテーテルの固定に適しています。
Y字に切り込みを入れたサージカルテープで補強固定すると、固定力が高まります。
Ω固定や、切り込みを入れたサージカルテープで挟み込むような補強固定を追加すると、固定力が高まります。
必要に応じて、シーネを使った固定も考慮しましょう。
血管内留置カテーテル管理における有害事象を防ぐには、カテーテルをしっかり固定することと、よく観察し異常を早期に発見できることが基本です。患者の安全確保と治療の継続を図りましょう。
血管内カテーテル管理における有害事象の対策には、知識の標準化と手順の標準化が必要です。そのためには、スタッフへの継続的な教育が欠かせません。3Mでは、院内教育・勉強会などでお使いいただける動画資料をご用意しております。
※以下のコンテンツをご希望の方は、弊社営業担当者へのお問い合わせ、または、こちらのサンプル・資料請求フォームよりご請求ください。
血管内留置カテーテルの管理について
(こちらは院内教育動画サンプルです。動画の一部をご覧いただけます。)