※カテーテル由来血流感染(catheter related blood stream infection)
札幌医科大学附属病院 腫瘍・血液内科
井山 諭 先生
当院の直近3年間(2015~2017 年)の造血幹細胞移植は、38 件です(表1)。急性白血病や造血幹細胞移植では、治療期間が長く、大量化学療法による長期の好中球減少期間が持続します。特に、好中球数が500/μl以下になると重症感染症の合併リスクが高まり、CRBSIや菌血症の発生、それに起因した敗血症性ショックなど、生命にかかわることがあるため、治療に携わる私たちは、疾患そのものだけでなく、感染症とも常に闘わなくてはいけません。
表1 札幌医科大学附属病院 血液内科における造血幹細胞移植実績(2015.01.01~2017.12.31)
同種造血幹細胞移植 | 自家 移植 |
合計 | ||||||
血縁 骨髄 |
非血縁 骨髄 |
血縁 末梢血 |
非血縁 末梢血 |
臍帯血 (血縁+非) |
計 | |||
2015年 | 0 | 10 | 1 | 0 | 0 | 11 | 7 | 18 |
2016年 | 0 | 7 | 2 | 0 | 2 | 11 | 7 | 18 |
2017年 | 0 | 10 | 2 | 2 | 2 | 16 | 7 | 23 |
3年合計 | 0 | 27 | 5 | 2 | 4 | 38 | 21 | 59 |
過去累計 | 14 | 108 | 14 | 2 | 32 | 170 | 73 | 243 |
診療科における移植の特徴 |
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(単位:件)
当科では、移植前の化学療法開始時は、ほぼ全例でCVCを挿入します。移植後、安定期に入り、輸液による栄養療法が必要になった場合には、PICC に切り替えることもあり、CVCとPICCの使用割合はおおよそ8 対2です。また、CRBSIリスクは高いものの、血液疾患の治療にはマルチルーメンカテーテルの挿入が必須となります。
カテーテルの挿入部位は、鎖骨下静脈は内頸静脈に比べ感染リスクが低いとされていますが、鎖骨下静脈穿刺は気胸などの機械的合併症を起こすリスクがあります。移植時や化学療法前に機械的合併症を起こしてしまうと、治療が余儀なく中断され、最悪の場合、生命に危険を及ぼします。それを避けるため、当科では内頸静脈への留置を基本としています。
当科では、感染制御部と連携しながら、CRBSI対策を行っています。当初より、CDC ガイドラインを遵守し、カテーテル挿入前の手指衛生、挿入時のマキシマルバリアプリコーション(MSBP)を徹底し、挿入時、挿入後はクロルヘキシジンでの皮膚消毒、週1回の定期的なドレッシング交換など、CRBSI 対策のケアバンドルを講じています。
しかし、これらのバンドル対策を講じても、表皮ブドウ球菌が原因と疑われるCRBSIが多くみられ、そのうちのいくつかは明らかにコンタミネーションではない、つまりカテーテル刺入部を侵入門戸としたCRBSIでした。また、手順が標準化しづらい製品によるヒューマンエラーも見受けられ、これを機に刺入部保護のドレッシング材と、側注や時に採血に用いるニードルレスコネクタの衛生管理についての追加対策の検討に至りました。
当科では、CVCの挿入及び挿入時のドレッシング材による固定は医師が行い、その後の管理は看護師が担当します。そのため、製品選択に際し看護師の評価も重視しています。血液疾患患者さんにおいて、カテーテル刺入部からの出血や発赤は感染のリスクがあり、看護師からは早急な対応ができるカテーテル刺入部の視認性、手順の標準化ができるドレッシング材の要望があることがわかりました。そこで、当院の消化器内科で導入経験があり、CDCガイドライン(後述)において推奨されているクロルヘキシジン含有ドレッシングを新たに導入し、白血病と移植の全てのCVC留置患者さんを対象に用いることにしました。クロルヘキシジン含有ドレッシングの導入後、グラム陽性球菌の検出頻度が低下しました。また、さらに徹底した感染対策が求められる5床のクリーンルーム入室患者さんのニードルレスコネクタ管理を、従来のアルコール綿によるスクラブ擦拭から、米国医療疫学学会(SHEA)で推奨されているアルコール含有キャップに変更したことで、近年、バンドルに2つの対策を追加しました。
新規医療材料導入には、診療材料委員会の認可を得ることが必要ですが、エビデンスやガイドライン、費用対効果を訴求することが有効でした。また、これら新規医療機器の適用を医師が明確化し、マニュアル化することで、看護師が迷うこともありませんし、シングルユースも徹底され、医療安全の維持ができています。
さらに、バクテリアルトランスロケーションを原因とする菌血症対策として、移植患者さん全例に対し、化学療法の開始前に、経鼻経管を用いた早期経腸栄養療法を取り入れたところ、Enterococcusや大腸菌などによる菌血症が激減しました。この治療は栄養サポートチーム(NST)と共に取り組んでいて、今後は白血病患者さんへも拡大していきたいと思っています。
移植後の移植片対宿主病(GVHD)の影響による皮膚脆弱化により、消毒薬のスワブが触れるだけで痛みを感じたり、抗がん剤の影響による多量の発汗や、皮膚のかぶれが生じたりする患者さんがいます。ドレッシング材の管理は、汚れたり剥がれたりしていなければ、週1回の交換を基本としていますが、当科では予防的に皮膜剤を使用し、症状が改善しない場合は皮膚科医や皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)と連携し、他のドレッシング材に一時的に切り替えるなど、患者さんの苦痛を取り除くケアに努めています。
医療機器は、医療従事者にも患者さんにも安全・安心な製品であることが、適正使用していくために重要です。取り扱いが簡便であり、手順が標準化できることもポイントです。
新規製品が導入されるときは、メーカーからスタッフ向けに適正使用の説明会を行ってもらいます。その後、当院では、褥瘡委員会で作成したオリジナルのスキンケアマニュアル(図1)と、メーカー推奨の使用手順書(図2)を参照し、操作者による手技の自己評価をしています。このような取り組みには継続性が必要であるため、看護師が主体となり、入職者や異動者に対して、積極的に勉強会を開催し熱心に取り組んでいます。マニュアルは必要に応じて更新しています。
図1 スキンケアマニュアル
※実際のマニュアルでは、製品A~Kに具体的な製品名が表記されています
図2 使用手順書
るい痩や多量の発汗がある患者さんがいます。このような患者さんに対するケアの方法がまだ統一されておらず、スタッフによって異なる現状があります。そのため、キャリアや経験を問わず、どの看護師でも質の高いケアが行えるようにマニュアルを整備しておく必要があると思います。
私たちが目指しているのはCRBSIをゼロにすること。そこに少しでも寄与できるものは今後も積極的に取り入れていきます。
CDCガイドライン(一部抜粋)
2017 Updated Recommendations on the Use of Chlorhexidine-Impregnated Dressings for Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections
血管内カテーテル関連感染予防のためのクロルヘキシジン含有ドレッシングの使用に関する推奨
2017年改訂版
1.0 概要
1.1 推奨
1. 18 歳以上の患者
a. カテーテル由来血流感染(CRBSI)またはカテーテル関連血流感染(CABSI)を低減するための臨床適応を明記したFDA 承認済みのラベルのあるクロルヘキシジン含有ドレッシングを、短期留置用の非トンネル型中心静脈カテーテルの挿入部位を保護するために使用することが推奨される。(カテゴリーIA)
2. 18 歳未満の患者
a. クロルヘキシジン含有ドレッシングは、皮膚に重篤な有害反応が生じるリスクがあるため、早産児における短期留置用の非トンネル型中心静脈カテーテル挿入部位を保護するための使用は推奨されない。(カテゴリーIC) b. 18 歳未満の小児患者および非早産児における短期留置用の非トンネル型中心静脈カテーテル挿入部位を保護するためのクロルヘキシジン含有ドレッシングの使用に関しては、この年齢群における有効性および安全性について公表された質の高い研究によるエビデンスが不足しているため、いかなる推奨も策定できない。(未解決問題)
これらの推奨は、2011年ガイドラインの「カテーテル挿入部位のドレッシング法(推奨12 および13)」のセクションにおけるC-Iドレッシングに関する2 点の記載内容のみを代替するものである。短期留置用の非トンネル型CVCへのC-Iドレッシング使用に関する改訂版の推奨は、トンネル型CVC、末梢静脈カテーテル、動脈カテーテル、および2011年ガイドラインに述べられている他の項目についてのその他の推奨を代替するものではない。
Centers for Disease Control and Prevention(CDC) Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee(HICPAC)