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医療用製品

一歩先のテープ選択
「汎用固定用途」と「しっかり固定用途」

課題解決へのステップとそれを支える「観察眼」

  • 東京山手メディカルセンター積美保子氏

    独立行政法人地域医療機能推進機構 東京山手メディカルセンター
    皮膚・排泄ケア認定看護師
    積 美保子 氏

一つ一つの看護を確実に安全に行うためには、各患者さんの状況にあわせて製品や手順を適切に選択することが重要である一方、製品や手順の選択肢が多すぎると院内全体の運用としては徹底において困難な面もあります。日常的に接することが多いテープ選択と運用についての取り組みを、東京山手メディカルセンター 皮膚・排泄ケア認定看護師の積 美保子氏にお話しいただきました。

 

当院は、418床、35診療科、7:1看護、平均在院日数10.3日の急性期病院であり、病床稼働率も高く、看護業務の中では命にかかわる機器の使用も多く、広い知識と緊張感をもって日々の看護にあたっています。
「知識」を駆使し、「多くの選択肢(製品と手順)」から、患者さんごとに最適な方法を「選択」して実践することが看護の理想です。ところが、最近の全国の医療現場では、看護師が日常使うテープについても、コストや在庫管理についての病院の方針で「豊富な種類を採用して、状況に応じて製品を使い分けることが困難になってきている」とよく耳にします。
この医療現場での現実をあえて前向きにとらえ、手順を標準化するとともに、標準的に使う製品を統一するときには、患者さんにとってより有用となる「一歩先のテープ選択」を心がけています。また、統一した製品を状況に合わせてどう使いこなすかは、看護師の「観察眼(皮膚トラブル対策を常に心がける意識と、それを判断する知識)」によって達成されると思っています。今回は「テープ選択」のプロセスについてお話させていただきます。

 

テープ選択の用途は2つ:「汎用固定用途」と「しっかり固定用途」


テープ固定についての主たる用途を、①ガーゼ固定などの「汎用固定用途」と、②ドレーン・チューブなどの固定の「しっかり固定用途」の2種類に大別し、①、②それぞれの用途で「標準使用製品」と「脆弱肌用製品」の2製品を準備しており、「2用途×2製品」の合計4つの選択肢で運用しています。

 

 

私が皮膚・排泄ケア認定看護師(以下、WOCナース)として、製品選択と併せて手順の徹底に取り組む基本スタンスとして重視していることは
    ㋐「製品性能」の正しい理解とそれに伴う手順の理解
    ㋑「製品性能」だけに頼ることなく、看護師としての「観察眼」の意識を持ち続けることの二つです。

【1】ガーゼ固定などの「汎用固定用途」のテープの検討事例


今回、テープの見直しをするきっかけとなったのは、「テープのエッジ部分での皮膚障害」でした。看護師の「観察眼」や「手順の見直し」だけでは解決できないケースがあると判断し、新たな製品を試すことにしたのです。

テープのエッジ部分で皮膚障害を起こす患者について原因分析をしたところ、「テープの基材の固さ」によるのではないかと判断し、現状で使用している「製品A」よりも、より薄い基材を試したいと考えました。「製品A」は全国でも多くの病院で採用されており、当院の現場でも大きな不満は出ていない優れた製品でしたが、テープのエッジ部分が固いのか、どうしても皮膚障害を起こす患者がおり、その対策のために、「製品A」と同等以上の粘着特性を持ちながら、さらに基材が薄く、可能であれば、伸縮とまでいかなくてもある程度皮膚に追従してくれる基材の製品を探していました。ある程度の皮膚追従性(ストレッチ性)がないとテープのエッジがあたって点状に皮膚障害がおきることを経験していたからです

検討製品とした「3M™ ジェントルフィックス™ さくっと楽に切れるテープ(以下、さくっと楽に切れるテープ)」についての私の第一印象は、
    ①粘着特性は「製品A」と同等で丁度よい
    ②基材は極めて薄く合格点、薄い不織布のためストレッチ性もある(写真1)
    ③手で綺麗に切れる(写真2)
    ④エッジキャップ(テープ側面のキャップ)によって汚れを防げる
の4つでした。③と④については、もともとは検討条件としては想定していなかった特長でしたが、ベッドサイドでハサミを使うことは医療安全上も極力避けるべきであり、ハサミの置忘れの不安もあったので、予期せぬうれしい特長でした。テープに5㎜間隔で細かなスリットが入っているので綺麗に切れると聞いて納得しました。

 

  • 写真1 肌へのなじみ

    写真1 肌へのなじみ(山手メディカルセンターご提供)

  • 写真2 さくっと楽に切れるテープの手切れ性の実際

    写真2 さくっと楽に切れるテープの手切れ性の実際(3M社内で撮影)

*製品の臨床検討・結果・考察

まず、褥瘡対策委員会内で実際に貼付して確認しました。褥瘡対策委員会は、皮膚科医師2名、WOCナース2名、管理栄養士1名、理学療法士1名、臨床検査技師1名、事務職1名の8名で構成されています。製品性能とコストの両面から検討し、委員会での合意が得られたので、次のステップとして、WOCナース2名とリンクナース(10名)で、全部署一斉に採用を念頭において評価をしました。
採用を念頭においての評価は、実践的な本音の評価(ある意味で厳しい評価)になるので有用です。結果は、どの部署からも、前述の②「基材の薄さ」、③「手で綺麗に切れる」が高評価であり、特に悪い評価はなかったので、「製品A」からの切り替えとなりました。

さらに採用後のフォローアップとして、採用2ヶ月を経過したところで現場へのアンケート調査を実施しました。各現場で症例を重ねることで様々なことが見えるからです。
その結果、良い点としては、「肌に優しい」「皮膚への密着性が良い」「手で綺麗に切れる」の3つに集約され期待通りでした。「テープのエッジ部分での皮膚障害」への対策を念頭に、患者さんにとってさらに良いテープを使用したいという目的が達成されてとてもうれしかったです。 一方、気になる点としてあがったのは、㋐基材の薄さ:「端が見つけづらい」「薄くてはがしづらい」「フニャフニャして丸まる」、㋑切れ方:「意図したところで切れない」、㋒粘着力の弱さ?:「透析回路など固定力がいる用途には不安」「重ね貼りが不安」「濡れた時にはがれるケースがある」「テープの交換頻度が上がるケースがある」などでした。㋐と㋑は慣れによってほぼ解決できましたが、㋒については、重要なのでさらに個別にヒアリングをしました

「透析回路への固定」について調査したところ、固定方法にバラつきがあることがわかりました。当院では、抜針事故対策として医療安全の観点から、写真のようにしっかりと固定するよう指導しています(写真3)。この固定方法で使用している場合は、従来の「製品A」と同様に問題なく使用できることが確認できましたので、手順の徹底によってこの不安は解決できました。ある意味で良いきっかけになったと思っています。

「重ね貼りの不安」については、テープの特性を理解することで解決できます。テープは、「裏面にライナー紙がついているテープ」と「ライナー紙がなく、巻きだすテープ」に大別されます。一般的に「ライナー紙がなく、巻きだすテープ」は、粘着面でない外側をはがれやすく加工していることが多いのです。テープがスルッと巻きだせるのはそのためです。よって、例えば補強的に重ねる場合も、テープを2本並行に重ねて貼るよりも、写真のようにXに貼ることでしっかりと固定できます(写真4)。また、テープを何重にも重ねないで、できるだけ肌に貼る面積を多くとることでしっかりと固定できます。「ライナー紙がなく、巻きだすテープ」のこのような特性を理解することは大切です。

  • 写真3 透析回路への固定の例

    写真3 透析回路への固定の例(山手メディカルセンターご提供)

  • 写真4 X固定例

    写真4 X固定例(3M社内で撮影)

「濡れた時にはがれるケースがある」について検証したところ、外部から液体がテープの細かなスリットを通してはがれやすくなり、テープの交換頻度が上がるケースがあるのだろうと推察しました。よって、シャワー浴などの時の防水カバーと肌の固定、発熱などで発汗が多い患者、ストーマ周囲の固定などには、注意して観察し使用することを徹底しています。
以上のような製品特性の理解によって、アンケートであがった意見も収束してきました。

私の基本的な考え方として、ガーゼ固定などの用途の場合は、粘着力が強いために皮膚が引っ張られてテープのエッジ部分で皮膚障害が起きるくらいなら、「はがれたら貼りなおせばよい」「1日持てばよい」と思っています(もちろん、前述の透析患者の場合は「透析中持てばよい」です)。「観察眼」を常に意識して、患者さんの状況に合わせて適宜はがして観察して貼るという意識の徹底がとても重要だと思っています。この点は、同じテープに求める性能でも、チューブ固定などの「しっかり固定用途」に使うテープとは、判断基準が全く異なります。

*2つの製品の使いわけと手技の徹底

ガーゼ固定などの「汎用固定用途」については、基本は「さくっと楽に切れるテープ」の1製品で問題ありません。なお、「製品A」を使用していた時から血液疾患、透析、抗がん剤等で肌が非常に脆弱な患者さんには、特別な対応が必要であり、その場合は「3M™ やさしくはがせる シリコーンテープ」を使用していました。今回「製品A」から切り替えたことで、特別な対応をする患者さんが減る(「さくっと楽に切れるテープ」でも問題なく対応できる患者さんが増える)のではないかと期待しています。

製品変更についての現場への通知と徹底については、WOCナース、リンクナース、事務部門、SPD(院内材料管理業者)とで一斉に行いました。手技的には、「製品A」との違いは「ハサミを使わなくてよい」だけなので、現場での混乱はありませんでした。また、私は週に一回、全病棟を「褥瘡回診」していますので、その時に確認しながら相談にのっており、看護師個々人が「観察眼」を意識して反復チェックをしてもらうように徹底しています。実際に当院の看護師は患者さんを常に注意深く見てくれており、異常時には、どんな小さな皮膚損傷でも報告を上げてくれますので非常に信頼しています。

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【2】ドレーン・チューブ固定などの「しっかり固定用途」のテープの検討事例

ドレーン・チューブなど、はがれてはいけない用途については、皮膚へのやさしさよりも固定力を重視せざるをえない現実があります。とはいえ、皮膚へのやさしさを決してあきらめず製品や手順を見直すことで少しでも改善に取り組むことは大切だと思います。
当院では、「しっかり固定用途」としては、多くの病院で採用されている「製品B(粘着性伸縮包帯)」をメインで使用していました。一般病棟などでは大きな課題はなかったのですが、ICUからは「鼠径部での圧迫固定やカテーテル固定」で、整形外科病棟からは「膝の固定等」で、それぞれ皮膚障害(水疱等)が問題となっていました。固定方法の変更での対策も何度か試みましたが、解決できない状態であり、循環器科の医師からも「他の製品はないの?」との相談もあったので、製品の検討に入りました。

検討製品とした「3M™ マルチポア™ 粘着性綿布伸縮包帯(以下、マルチポア™ 伸縮テープ)」についての私の第一印象は、
    ①粘着特性は「製品B」と同等で固定力は大丈夫であろう
    ②基材は、より伸縮性が高いので肌への追従性はさらによいのではないか
ということでした。

*製品の臨床検討・結果・考察

まず、自分自身で関節部、可動部に何度も試し、その結果、粘着力、伸縮性について問題がなかったので、患者さんへの試用を開始することにしました。
評価先は、明確に課題のあったICUに絞り実施しました。現場の「テープによってできる水疱をなくしたい」との思いを実現できることを願っていました。
評価結果は良好で「水疱の発生が減った」との感触も得られたので、正式に製品を切り替えることにしました。切り替えにあたり、同種の製品が複数混在することは、医療安全的な視点でも、在庫管理の面でも避けることが院内マネージメントの基本であるため、ICUだけでなく病院全体で製品を切り替えることにしました。

「マルチポア™ 伸縮テープ」についても採用後2ヶ月を経過した時に、現場へのアンケート調査を実施しました。その結果、良い点としては「水疱が発生しなくなった」「スムーズに剥がすことができてトラブルを起こしにくい」「患者さんの皮膚剥離障害がおきにくい」「しっかり固定できる」「長時間でも表皮剥離やかぶれてしまう例は少なくなった」等があがり期待通りでした。切り替え前に評価したのはICUだけでしたので、各病棟からも評価が良かったことは大きな自信となりました。

一方気になる点としてあがったのは、㋐粘着力の弱さ?:「圧迫固定に関しては弱く感じる」「しっかり固定できているか不安」「肌の弱い方にはまだ表皮剥離やかぶれることがある」「他の製品と重ねて貼付することがあるが、その際はがれやすい」「粘着性が弱く、抜去防止のため何度もはりかえることがある」と、㋑操作性の悪さ:「ライナー紙がはがしづらい」「柔らかいので、長めに切って貼ろうとするとテープ同士がくっつきやすい」でした。
㋐と㋑のどちらの課題も、根っこは使用する時の「手技・手順」に関連していることなので、「貼付時にテープをより圧着すること」、「正しいライナー紙の剥がし方のコツ」などの「マルチポア™ 伸縮テープ」の基本的な使い方(適正使用)の徹底で多くは解決できると考えました。㋐については、文字通りしっかり圧着すること、㋑については、次のような手技(コツ)の徹底が重要と感じています。

*2つの製品の使いわけと手技の徹底

ドレーン・チューブ固定などの「しっかり固定用途」については、基本は「マルチポア™ 伸縮テープ」1製品で運用しています。主たる用途は、ドレーン固定、チューブ固定、ある程度圧迫をかける用途、関節部・可動部の固定などになります。用途については、以前使用していた「製品B」と変わりはありません。なお、以前より「製品C(粘着性伸縮ガーゼ包帯)」も採用しています。こちらは、肌が脆弱な人のバルーン固定などで「製品B」を使う時の、いわゆる土台で使用するなどの特殊用途として使用していました。「マルチポア™ 伸縮テープ」採用後も「製品C」が、どの程度必要かはまだ見えてきていません。

院内への製品変更と手技についての案内は、WOCナースとリンクナースで実施し徹底をはかりました。ライナー紙がある粘着性伸縮包帯は、ライナー紙にスリットがある製品もありますが、従来の「製品B」は「マルチポア™ 伸縮テープ」と同じくスリットのない製品だったので、手技の変更は不要でした。ライナー紙にスリットがない製品は、「端からはがす」のではなく写真のように、手でライナー紙を縦にちぎることで簡単に貼れます(写真5)。特に、長いテープとして使う場合は、ライナー紙の数か所に手で切り込みを入れることで上手に貼れます(写真6)。「製品B」に比べて「マルチポア™ 伸縮テープ」は、伸縮性が高いため追従性も良いのですが、粘着剤同士がくっつくとはがれにくいので、このテクニックは大切です。この手技(コツ)の徹底で、前述の㋑の課題は解消されました。

  • 写真5 裏面ライナー紙を剥がす際に縦にピリッと切り込みを入れる例
    写真5 裏面のライナー紙を剥がす際に縦にピリッと切り込みを入れる例(山手メディカルセンターご提供)
  • 写真6 長いテープとして使用する際に裏面ライナー紙に切り込みを細かく入れた例

    写真6 長いテープとして使用する際に裏面のライナー紙の切り込みを細かく入れた例(山手メディカルセンターご提供)

なお、伸縮性のテープ全般に言えることは、「伸ばして貼らない」ことです。このような「しっかり固定用途」のテープについては、医師が自ら使用することも多いので、医師への手技の徹底や使い方の注意点の伝達は、普段からコミュニケーションが密な現場の看護師(看護師長、副看護師長)から適宜お願いしています。使用用途が多岐にわたるので、普段から各医師と接点が多い現場の看護師からケースごとに具体的に伝えてもらう方が、より実践的に共有できることを実感しています。もちろん医師から直接質問が来た場合などは、WOCナースが直接答えています。必要な説明資料はWOCナースで作成しており、新しい知見があれば更新しています。また、これまでの教育を意識的にリマインドすることも大変重要です。当院では、各看護師が自分で知識をリマインドしたり、さらに自己研鑽を進めたりしやすい環境を整えるために、専門書をWOCナースの部屋に一括で保管しており、それらは誰でもいつでも自由に閲覧できる体制になっています。また、それらの蔵書の一部は、看護師自治会費用で購入するなどの積極的な取り組みにもつながっています。

以上、当院での取り組みをご紹介しました。よりよい看護とは「製品性能」だけに頼ることなく、常に看護師の基本意識としての「観察眼」を持って患者さんの状況に合ったケアを選択することで達成できるのだと確信しています。これからも、患者さんのために常に一歩先を目指して「手順」と「製品」の両輪でのブラッシュアップを院内全体で続けていきたいと思っています。

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収録:2019年9月 独立行政法人地域医療機能推進機構 東京山手メディカルセンターにて


3M、ジェントルフィックス、マルチポアは、3M社の商標です。