昭和大学江東豊洲病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
藤尾 敬子 先生
医療安全の徹底が重要視される昨今、「摩擦・ずれによって、皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(スキン-テア)」に注目が集まっています。特に、高齢者、がん患者などのスキン-テアは、発生する場面が様々であることから対策に苦慮しているのが実情です。このような状況のなか、2015年に一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会が『ベストプラクティス スキン-テアの予防と管理』※ を刊行し、対策すべき軸を示しました。この本では、スキン‐テアの発生状況として最も多いのが医療用テープの剥離時(17.5%)であると報告されています。
本稿では、サージカルテープ剥離時の表皮剥離対策の一つとして、シリコーンテープを使用する対象患者と使用法を標準化し運用を開始した、昭和大学江東豊洲病院の取り組みを紹介します。
当院は、大学の附属病院という特性上、手術目的の患者やがん患者の入院が多く、スキン-テアの所見のひとつであるサージカルテープ剥離時の表皮剥離(以下、表皮剥離)が見られることもめずらしくありません。その対策のため、どのような患者に表皮剥離が見られるのかを調査したところ、「がん患者」と「透析を行いながら他疾患の治療を実施している患者」の2つの患者群に多いことがわかりました。これらの患者のなかには、看護の手技だけでは対応が困難なほど皮膚が脆弱な人も多いため(写真1)、サージカルテープの種類そのものを再検討し、その結果シリコーンテープを導入することになりました。できるならば皮膚が脆弱なすべての患者にシリコーンテープを使用したい思いがありましたが、コストの課題がありました。それを解決するため、絶対に必要な患者のみにシリコーンテープを使用することを条件に(これは裏を返せば、「皮膚が脆弱な患者には必ずシリコーンテープを使用する」という標準化です)病院の合意がとれ、シリコーンテープの導入が決まりました。
写真1 スキン-テアが起こりやすい皮膚状態
当院は2014年の開院以来、院内全体を混合病棟として運営しています。混合病棟は、新人看護師にとっては勉強の分野が広く、専門分野が絞れずに不安があるなどのデメリットが指摘されることがあります。確かに苦労することもありますが、一方で多様な診療科で幅広い経験を積むことができ、様々な患者が全ての病棟にいるからこそ、他病棟との情報交換を通して課題やノウハウを共有できるメリットがあります。看護教育についても、製品や手技・手順をより丁寧に統一していくことが必須だと考えて日々活動しています。
診療科別の病棟配置をしている急性期病院でも、空いているベッドに診療科を問わず患者を受け入れて実質的には混合病棟となっているところもありますし、今後増加が予想される地域包括ケア病棟も混合病棟となっていますので、将来的には他院でも、当院と同じような看護の専門性と教育の課題が増えるのではないかと予測しています。
1.現状把握
当院では、採血後やガーゼ固定の際には、患者の状態にあわせて汎用性のあるサージカルテープ3種類を使い分けていました。サージカルテープ使用に関する課題は次の3つに整理できました。
(1)どのサージカルテープを使用しても、「がん患者」と「透析を行いながら他疾患の治療を実施している患者」では表皮剥離が多く発生している。
(2) 腹膜透析で使用するチューブがシリコーン素材のため、固定してもすぐにサージカルテープが剥がれてしまう。
(3)サージカルテープの適切な貼り方・剥がし方についてのスタッフ教育が不十分である。
これらの課題を解決させるためには、スキントラブルを起こさないこと、シリコーン素材にも貼付できること、教育体制を整えることが必要と考えました。また、これによって表皮剥離発生という医療安全上のアクシデント・インシデント件数を減らすことも望めると考えました。
2.コスト試算
大前提として、表皮剥離による患者の苦痛を軽減したいという思いは強くあり、それをどのようなかたちで提示するかを検討しました。シリコーンテープを導入するにはコスト面の課題があったため、3つのケースを比較して示すことにしました。
これらをもとに診療材料委員会で検討し、シリコーンテープ導入によるコスト的なメリットについて理解を得ることができ、採用が決定しました。
3.運用方法
シリコーンテープを新規導入するにあたって、従来のサージカルテープの運用方法を見直しました。具体的には、調査結果をふまえ、「透析を行いながら他疾患の治療を実施している患者が多く入院する病棟(腎臓内科)」と「透析室」、「NICU」にシリコーンテープを常備しました。その他の病棟には常備はせず、「がん患者」「透析を行いながら他疾患の治療を実施している患者」に加え「テープ剥離時に表皮剥離が発生しそうな患者」をアセスメントし、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC)へシリコーンテープを使用したい旨を伝え、払い出しを行うというルールを定め、まずは必要な患者に使用することを徹底しました。
4.教育方法
「1.現状把握」で述べたとおり、サージカルテープの使用に関するスタッフ教育も課題だったため、2016年は計25回の「サージカルテープに関する研修」を計画、実施しました(表1)。各病棟にWOC とメーカー担当者が出向き、リンクナースと連携してシリコーンテープの特性、注意点(表2)の説明会を行い(写真2)、浸透させました。
さらに、これまでサージカルテープの使用に関するマニュアルはなかったため、これを機にすべてのサージカルテープに関するマニュアルを作成することにしました。標準看護手順には概念や概要を記載し、褥瘡対策マニュアルには、適切な貼り方・剥がし方等のより実践的な内容を掲載する予定です。また、既存のポケットタイプのマニュアル(医療安全、感染対策、褥瘡対策の3つがまとまったもの、122ページ構成)にも掲載する予定です。
表1 研修・説明会スケジュール
表2 シリコーンテープの特性と使用時の注意点
写真2 リンクナースと行った説明会の様子
5.今後の課題
教育や研修を継続して実施する必要があると感じています。前述した作成中のマニュアルには、サージカルテープ関連として、表皮剥離のことやサージカルテープの選択、固定方法を掲載する予定です。
また、医師にもサージカルテープに関する知識や、適切な貼り方・剥がし方を知ってもらうため、研修医の時からサージカルテープの教育・研修に参加してもらうことが重要と考えています。教育・研修では、様々なサージカルテープに触って自身で実感することが有用なので、実践を交えたプログラムを検討中です。
最後に、院内には皮膚が脆弱な患者がまだ多くいらっしゃいます。例えばステロイド投与中の患者などにはシリコーンテープを積極的に使用すべきです。そのためには、スタッフの意識と知識を向上させるための継続的な教育・研修や、個々の患者に適したサージカルテープが選択できる環境を整備するとともに、各現場でのサージカルテープ剥離時に起こる表皮剥離対策の効果や実績を把握し、病院全体で共有することが重要と考えています。