三豊総合病院
皮膚・排泄ケア認定看護師 ETナース
政田 美喜 先生
この製品を最初に使用したきっかけを教えてください
この患者さんは、切開創の内にストーマが造設されていて、6時方向に離開による潰瘍があり装具の密着が悪く、排泄物の漏れもあって1日3~4回の交換を強いられていました。またストーマ周囲の皮膚にびらんがありました。
前病院退院直後にセルフケアできなくなり受診されましたが、ストーマ装具を貼るスペースがわずかしかありませんでした(写真1)。このように、ストーマの高さがない、周りに傷がある、びらんがあるなど管理が難しい状況は皮膚や排泄ケアに関わる看護師であれば、誰しも経験があるのではないでしょうか。
当初、パウダー状・板状・用手形成皮膚保護剤を使用し、ストーマ装具を装着する工夫をしていましたが、皮膚にびらんがあるため、ストーマ装具の密着が保たれず、その結果、pHの高い排泄物が漏れ、皮膚面に触れて皮膚状態が悪化する、という悪循環に陥っていました。他に、皮膚面を保護する方法はないかと考え、「もしかしてくっつくかも」という一分の期待を抱いて、滲出液が滲んでいる皮膚の上にもバリアを形成するという接着性耐久被膜剤を使用しました(写真2)。
写真1 ストーマ周囲のびらん
写真2 接着性耐久被膜剤を塗布
ケアについて、どのような変化がもたらされましたか?
パウダー状皮膚保護剤などで処置していたときは、1日3~4回のストーマ装具の交換が必要でしたが、接着性耐久被膜剤を使用してからは1.5日に1回の交換に移行できました。さらに、1週目には皮膚の上皮化がみられ、3日に1回の交換までに減りました。これは接着性耐久被膜剤によるしっかりした保護によって皮膚の症状が改善しやすい環境が整えられたことに加えて、ストーマ装具の密着を保ちやすくなったからだと捉えています。当院ではその時点を目標達成と判断しており、この患者さんの場合もそれをクリアしたということで退院の目処が立ちました。
使用するにあたって、特に注意された点はありますか?
粘着製品が強くつくことがあると聞いていたので、ストーマ装具を剥がすときにシリコーン系の剥離剤を忘れずに使うように注意しました 。また、イレオストミーでケア中に排泄物が噴水のように排泄されるため、接着性耐久被膜剤を塗布する際は、液が乾く前に排泄物で汚染されないよう、排泄物を吸引しながら塗布しました。
コスト面ではいかがでしたか?
算定用品ではない高額な用品を使用する場合、誰が負担するにしても、ストーマ装具が約1,000 円と仮定して1 日3 回の交換が必要なこの事例の場合だと約3,000 円になり、皮膚保護剤の費用が追加でかかります。つまり、交換頻度の減少が経済的負担を軽減したということになります。
また、漏れによるストーマ装具交換に1時間は要しますが、接着性耐久被膜剤の使用により、そのケアの頻度が減りました。そのため、スタッフの業務負担はもちろんのこと、心理的な負担も大きく軽減されました。
ストーマ周囲以外にも接着性耐久被膜剤を使用した事例がありましたら教えてください
1 例目は、失禁関連皮膚炎(IAD: Incontinence Associated Dermatitis)です。写真3は、脳血管障害で抗凝固剤を服用していた患者さんで、臀裂部に入った亀裂がなかなか治らず、さらに経管栄養が原因で下痢を発症し、亀裂の周囲に発赤と一部びらんが生じ、強い痛みを訴えていました。皮膚科で処方された皮膚疾患治療剤(軟膏)を塗布していましたが、 なかなか改善につながりませんでした。その後、接着性耐久被膜剤を塗布し、物理的に排泄物の刺激を遮断することで、疼痛の訴えが少なくなり、臀部をこすりつけるような動作が見られなくなりました。また、その後数日で上皮化が進みました。
2例目は、閉鎖が見込まれない瘻孔周囲の皮膚障害の事例です。瘻孔から出る排液は腸液や膵液、胃液を含む消化液で、これらはpHが高く、皮膚障害を引き起こす大きな要因となります。特に膵液はアルカリ性で皮膚障害の発生リスクが非常に高く、数時間で皮膚が真っ赤になり、速やかな対処が求められます。
瘻孔からの排液への対処法として、不織布ガーゼを当て続けたり、ストーマ装具を使用したりして、瘻孔近接部の皮膚を保護する方法があります。ただ、瘻孔に関しては、自然に開いたところから排液が出てくるので、ストーマのような高さは全くなく(写真4)、なかには皮膚保護剤を使用しても単品貼りでは管理できない場合があります。その際、切片貼りといって硬い保護剤で周りに平面をとるための補正を行うと、ケアに1 時間ほどかかるかかることもあります。今回、接着性耐久被膜剤を使用したところ、皮膚保護剤との密着も良かったため、切片貼りはせず薄い皮膚保護剤を貼って周囲を保護するケアで改善を認めることができました。
使用するにあたって、特に注意された点はありますか?
1例目のように、尿や便など排泄物が皮膚に長期的に接触したことが原因で生じるIADは臀部のみならず陰嚢にもみられることがあります(写真5)。このようなIAD に対しては、皮膚を伸ばして接着性耐久被膜剤を塗るようにしています。また、他の注意点としては、前処置としての除毛が挙げられます。 体毛に接着性耐久被膜剤が付くとそれがダマになり、排泄物が付着しやすく、垂直型感染の汚染源になる可能性があるからです。 そのため、除毛したうえで、接着性耐久被膜剤を塗布する必要があると思います。
どの事例にも共通のこととして、塗り直しのタイミングの判断が挙げられます。しかし、ケアの際に頻繁に皮膚の状態を観察しているので、判断がつくようになりました。こちらは慣れの問題かもしれません。
院内での教育はどのようにされていますか?
普段からスタッフには、創傷治癒の遅延や、びらん等の皮膚障害が発生した際には早期に適切な処置をする必要があると教育しています。製品の特徴を理解し適切な症例に速やかに使用することで、質の高い医療を提供できると考えているからです。この製品はこれまでにないタイプの製品なので、使用する際は相談してきたスタッフとできるだけ一緒に処置して経過を観察し、本製品やケアの選択理由について説明をすることで、スタッフのケアへの理解が深まり、フィジカルアセスメント力の向上につながっていると感じます。
今回使用した接着性耐久被膜剤は、症例の適応性の判断ができれば、特別なテクニックを必要とせず使用できる製品だと思います。使い方をスタッフに教育しやすいことも嬉しいですね。