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医療用製品

滅菌保証の取り組み
3M™ アテスト™ 超短時間判定用プロセスチャレンジデバイス(PCD)の活用を中心に~

  • (左)大阪赤十字病院 中央滅菌室管理者 看護師長・感染管理認定看護師 西 好美氏  (右)株式会社エフエスユニマネジメント 石田 諭司氏

    (左)大阪赤十字病院 中央滅菌室管理者
    看護師長・感染管理認定看護師
    西 好美 先生
    (右)株式会社エフエスユニマネジメント
    石田 諭司 氏

無菌性が保証された滅菌物を現場に供給することは、安全な医療を提供していくうえで極めて重要な業務です。その一環として行う滅菌達成の確認作業は、滅菌の質を大きく左右するため適切に行われなければなりません。大阪赤十字病院では、より高いレベルの滅菌保証を目指して毎回の滅菌工程ごとに適切な負荷(抵抗性)をかけた生物学的インジケータを使用する取り組みを始めています。今回、その取り組みの評価について、同院 中央滅菌室管理者 看護師長・感染管理認定看護師の西好美先生と、同院より滅菌業務を受託している株式会社エフエスユニマネジメント 責任者の石田諭司氏にお話しいただきました。

  • 滅菌保証におけるBIとPCDの重要性

    滅菌の質保証は安全な医療提供を確約するために不可欠の工程であり、感染管理に極めて重要な役割を果たすものです。
    日本医療機器学会の「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」(以下、ガイドライン)は、質が保証された滅菌物の供給にあたっては物理的パラメータ、化学的インジケータ(Chemical Indicator:CI)、生物学的インジケータ(Biological Indicator:BI)によるモニタリングの結果に従って管理することを勧告しています1)。これら3つのインジケータのなかでBIは滅菌に最も高い抵抗性を示す細菌芽胞を指標菌として滅菌工程の微生物の殺滅効果を直接的に検証できる唯一のインジケータとして位置づけられています。BIに関してガイドラインでは「当該滅菌工程に適したPCD(Process Challenge Device:工程試験用具)* 内部に挿入して使用する」としており、また病院機能評価では「BIは滅菌される器材の代表とすべく、PCDの形態で滅菌工程をモニターする」ことが求められています2)

    * PCD:ある滅菌工程に対して要求される負荷(抵抗性)を有し、その滅菌工程の有効性を評価するために用いられる用具(ISO11139およびその他の関連規格)。

  • 当院が抱えてきた滅菌保証上の課題

    当院では中央滅菌室に蒸気滅菌器4台、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌器2台を保有し、蒸気滅菌は1日に各数回、EOGは1日各1回の稼働サイクルで滅菌業務を行っています。BIの使用に関しては、以前は蒸気滅菌では1日の稼働の初回の滅菌工程時とインプラントの滅菌工程時に蓋付きケースにBIを入れて、EOGでは滅菌バッグにBIを入れてそれぞれ滅菌していました。しかし、滅菌物の包装形態がガイドラインで推奨されているものではなかったため適切な負荷(抵抗性)がかけられていない状態でした。蒸気滅菌は1日に数回稼働していますが、毎工程のBI使用ではなかったため、リコール(回収)のリスクが存在するという重大な課題を抱えていました。
    また、始業時のボウィー・ディックテストでは蒸気滅菌器の空気排除・蒸気浸透の適格性を確認しますが、その際にはスタッフが作成したタオルパックにテスト用シートを挟んで行っていました。しかし、タオルを使用したボウィー・ディックテストはスタッフの作業の質にばらつきがあったり、タオルは何度も使用することによって目詰まりや汚れの付着を招いたり、均一の結果を得るテスト条件としては不十分な状態といえました。

PCD毎工程使用に向けた取り組み

  • 写真1 BIを搭載した滅菌器の台車
    写真1 BIを搭載した滅菌器の台車

    当院では、年々、手術件数が増加していることや病院機能評価認定更新を検討している時期であることを背景に、当院が抱える滅菌保証の課題を解決するための新しいPCD製品の導入を検討することになりました。
    そこで注目したのが3M™ アテスト™ 超短時間判定用プロセスチャレンジデバイス(PCD)(以下、アテスト™ PCD)です。すでに3M社のBIを導入していたことから製品への信頼度は高いものがありました。
    アテスト™ PCDはAAMI(米国医療機器振興協会)の規格に準拠した包装形態に挿入されているので、経験を問わず誰でも適切な負荷をかけることができます。また、タオルPCDのように現場の作業者によるPCD作成の手間が省けるため効率的で、さらに単回使用であることから毎回同じ基準で評価することができ、評価の質のばらつきを低減できる利点が選択の決め手になりました。
    ただ、アテスト™ PCD を毎工程で使用するとなると、コストの壁は避けられません。当院でも2015年の病院機能評価の受審に際して、院内感染防止委員会ではアテスト™ PCD導入に賛同を得られましたが、医療機器材料等選定委員会では導入への理解は示されたものの、コストアップを理由に申請が凍結した経緯がありました。その後も管財課へ定期的に導入の相談を続けました。2020年に従来使用してきたオートリーダーを更新し、24 分のスピード判定でBIの判定結果が確認できる3M™ アテスト™ オートリーダー(以下、アテスト™ オートリーダー)を導入しましたが、毎工程のPCD使用に変更しない限り、リコールのリスクを根本的に解消することはできません。そこで次の病院機能評価認定更新となる2020年にICT(感染制御チーム)で再検討し、病院長・管理局長・管財課に相談したうえで院内感染防止委員会に諮り、アテスト™ PCDの毎工程使用に関する申請を医療機器材料等選定委員会に提出しました。
    当時の滅菌供給業務の状況として、使用履歴管理(ロット管理)システムが実践できていないこと、リコール対策の選択肢には使用履歴管理システムとPCDの毎工程使用があるが、前者はBIで陽性結果が出た場合、滅菌物の回収、再包装、再滅菌などの一連の作業が追加され、病院の信頼を揺るがす事態を招く可能性があること、PCDによるBIの毎工程使用にはリコールのリスクはほぼないこと、リコールのリスクを含めた全体的なコストはPCD毎工程使用のほうが圧倒的に低いことを訴求点としてあげました。事務スタッフが2015年からの中央滅菌室が抱える課題を認識してくれていたことはアテスト™ PCD導入に際し大きな助けとなりました。こうして中央滅菌室スタッフの日々の取り組みと多職種の協力により、病院機能評価の受審前に正式にアテスト™ PCDの毎工程使用が院内で認められました(写真1)。また蒸気滅菌と同時に、EOGについてもディスポタイプのPCDを、ボウィー・ディックテストもテスト用パックを導入しました。

アテスト™ PCD導入がもたらしたもの

  • アテスト™ PCDの毎工程使用が認可されてから運用開始までの間、蒸気滅菌の滅菌管理シートのフォーマット変更や、「培養中」「供給可」などの掲示物を作成しスタッフに周知しました。他にも、「培養の手順」をイラストで作成しスタッフがいつでも確認できるように掲示しています(図 1)。スタッフには事前にアテスト™ PCDのサンプルを試用してトレーニングしてもらっていたため、切り替え時の戸惑いや業務への混乱は全くなく、スムーズに導入が進みました。
    PCDの毎工程使用と滅菌の適否の確認作業によりスタッフの作業は以前より増えましたが、滅菌の質が安定して保証されることへの安心感は、作業量の増加を考慮しても余りある成果を得られたと考えます。滅菌業務は患者さんや他職種の目に触れることはありませんが、PCDの毎工程使用により滅菌保証を担保できていることは当院の医療安全を確実に下支えし、病院に大きな信頼をもたらすものと自負しています。
    感染管理の観点からも滅菌は手術部位感染(SSI)の予防と並んで感染防止の重要な柱です。滅菌業務は単に滅菌器へ医療機器を入れるだけの作業ではありません。滅菌の作業や工程を適切に行い、無菌性を保証したうえで滅菌物を現場に供給する使命があります。

  • 図1 BIの培養手順マニュアル
    図1 BIの培養手順マニュアル
  • 写真2 中央滅菌室スタッフの打合せの様子
    写真2 中央滅菌室スタッフの打合せの様子

    今回、アテスト™ PCD を導入する過程において先に導入したアテスト™ オートリーダーの使用により、判定結果を確認したうえで安心して滅菌物の払い出しができるようになったことは大きな成果でした。また、日ごろから中央滅菌室スタッフと密にコミュニケーションを図り、課題があれば早期に介入することも意識的に取り組んでおり、COVID-19 対応についても相談しながら業務を進めています(写真 2)。
    中央滅菌室は、安全・安心に使用できる医療機器を、安定的に医療現場に供給することが求められます。安全であることが当たり前、トラブルがなくて当たり前という厳しい評価基準のなかで滅菌業務は行われているのです。

    今回のアテスト™ PCDの毎工程使用により滅菌保証レベルが大幅に向上し、安全 100%、トラブル0%の評価基準により近づく取り組みができました。今後も関係各所とのコミュニケーションを密にとり、問題点が発生した場合は忌憚なく話し合いながら、医療の質の向上、安全・安心を担保する取り組みを継続していくことが、患者さんや病院職員、中央滅菌室スタッフに対して感染管理に携わる者が担う責務であると考えます。

引用文献
1)一般社団法人日本医療機器学会.医療現場における滅菌保証のガイドライン 2015.
2)公益財団法人日本医療機能評価機構. 病院機能評価 機能種別版評価項目<3rd G:Ver.1.0.>解説集.


取材:2021年5月 オンラインにて

3M、アテストは、3M社の商標です。