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医療用製品
滅菌の質保証の向上を目指して ~JCIの認証取得で高まった滅菌への意識~

滅菌の質保証の向上を目指して
~JCIの認証取得で高まった滅菌への意識~

  • 右)足利赤十字病院 看護部 中央材料係長 第2種滅菌技士 坂田 光利 先生(左)足利赤十字病院 感染管理室 看護師長 感染管理認定看護師 小林 由美江 先生

    (右)足利赤十字病院
    看護部 中央材料係長 第2種滅菌技士
    坂田 光利 先生

    (左)足利赤十字病院
    感染管理室 看護師長 感染管理認定看護師
    小林 由美江 先生

足利赤十字病院は地域中核病院として医療安全の確保、医療の質向上に重きを置き、2015年2月に医療施設の国際的評価機関であるJCI(Joint Commission International)を受審し、認証を取得しました。このJCI受審がきっかけとなり、中央材料室と感染管理室、関連する各部署との間で活発なコミュニケーションが生まれ、院内各部門の連携によって滅菌の質保証の取り組みが大きく推進されました。滅菌の質保証の維持、他部署との連携について、中央材料係長・第2種滅菌技士の坂田光利先生と感染管理認定看護師の小林由美江先生にお話しいただきました。
      
          
           

課題の抽出とJCI認定更新の歩み

当院は病床数540床(うち精神科病棟40床)、年間手術件数は約5,000件にのぼりロボット支援手術も導入しています。2011年に現所在地に全面移転して病院のハード面は一新され、それに相応しい医療安全や医療の質といったソフト面での向上を目指して、2012年に病院機能評価の認定受審、2013年にはJCI(Joint Commission International:国際合同委員会)の認証取得に取り組むことになりました。
まず、JCI受審に先立ち、前年にAPIC(Association for Professionals in Infection Control and Epidemiology:米国感染管理・疫学専門家協会)の審査を受けました。APICの審査は感染対策に特化し、洗浄・滅菌工程は厳しくチェックされます。例えば、始業時に毎日実施すべきボウィー・ディックテストは、審査当時の当院では予算的な問題もあり、2日に1回の実施でしたし、生物学的インジケータ(BI)も毎工程で使用しておらず、こうした点を厳しく指摘されました。第三者に客観的立場から不備を指摘されたことで滅菌の質向上へのさらなる取り組みの必要性を痛感でき、その後のJCI受審に大いに役立つものとなりました。
2021 年の3 回目のJCI 受審では、3Mの「洗浄・滅菌業務チェックリスト」を活用して準備しました(図1)。本チェックリストは「汚染器械の取扱、回収、搬送」をはじめとして8つに分類され、各分類には126の設問項目が用意されています。チェック項目には日常の業務で気づきにくいものも含まれているため、改善点が明確になりました。例えば化学的インジケータ(CI)テープの包装材への貼付は、テープ剥離時のリント発生を減らすためマチありの4点留めからマチなしの3点留めに変更しました(図2)。また、薬品を扱う場所に対して「緊急用のシャワー・洗眼器」の設置が求められるため、洗浄室に新たに設置し日常点検も行うようにしました(図3)。こうした工夫もチェックリストを活用した賜物です。このように客観的な評価によって業務上の見落としや改善点に事前対応できたことで、JCI 受審には自信を持って臨むことができました。

  • 図1 洗浄・滅菌業務チェックリスト

    図1 洗浄・滅菌業務チェックリスト

    126にもわたる設問があり、洗浄・滅菌業務を客観的に評価できる
       
       
         

  • 図2 滅菌物の管理

    図2 滅菌物の管理

    リント発生の低減のため、4点留めから3点留めに変更した
       
       
       
         

  • 図3 緊急用洗眼器の設置と点検管理

    図3 緊急用洗眼器の設置と点検管理

    JCIの審査では、薬品を扱う場所に対して「緊急用洗眼器」の設置が求められている
      
       
         

スピード判定によって質保証された滅菌物の払い出しを実現

当院の中央材料室(以下、中材)のスタッフは9名で、うち3名が第2種滅菌技士の有資格者です。中材では院内35部署から器材を回収し、洗浄・滅菌、組み立てから配送、滅菌物の管理までを行っています。滅菌器は蒸気滅菌器3台、過酸化水素ガス滅菌器2台の計5台を保有し、毎日の始業時に必ずボウィー・ディックテストを実施しています。また払い出し時は、患者の安全を最優先に考え、必ず滅菌時に入れたBIの判定結果が出てから滅菌物を払い出すことを原則としています。この原則を可能にしたのが、24分でBIの判定結果が確認できる3M™ アテスト™ オートリーダーの導入です。
本製品の導入当初は、医師への周知が不十分であったため緊急手術等が入ると、滅菌物払い出し後にBIの判定結果を医師に伝える状況でした。しかし、これではせっかくの超短時間判定も効果を発揮できず、中材スタッフは依然として滅菌の質保証を担保できていない不安を抱き続けていました。そこで、各科部長クラスの医師が参加し定期的に開催される手術室運営会議に中材も出席して、滅菌物の払い出し等について医師への周知を図る機会を重ねてきました。各科医師との継続的な対面で関係を築けたことが徐々に実を結び、現在ではBI判定後の払い出しが院内のスタンダードとなり、中材スタッフも安心して滅菌物を供給できるようになりました。
滅菌の質保証を担保した払い出し体制の構築とあわせて、各部署の滅菌物の有効期限の管理や保管状態の確認にも注視する必要があると考え、現在は中材、感染リンクスタッフ部会、感染対策チーム(ICT)がラウンドで現場チェックを行っています。

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部署間連携を重視した院内教育の取り組み

  • 図4 標語を用いた滅菌物の管理

    図4 標語を用いた滅菌物の管理

    ルールを可視化することで、滅菌物管理の周知徹底を図る
       
       
        

  • 院内には手術室運営会議のほか、院内感染防止対策委員会(ICC)や感染リンクスタッフ部会などを通して他部署と連携・情報共有を図る機会があります。諮問機関であるICCは各科の長との情報共有を行います。感染リンクスタッフ部会は医師を除く全職種で構成され、月に1回、感染対策の遵守を推進する場として重要な役割を担っています。感染リンクスタッフ部会にはワーキンググループが設置され、各々設定したテーマに沿って活動しています。例えば、診療材料グループでは滅菌物の管理方法や有効期限の見方、災害時の滅菌物の管理などの勉強会を重ね、滅菌物管理の標語として「左出し・右入れ、前出し・後入れ、上出し・下入れ」を考案し(図4)、年1回の成果発表会で高い評価を受けました。また、滅菌への関心が低いスタッフに対して、患者さんに使用する直前まで滅菌の質が担保される重要性を徹底的に伝える場を設けて周知を図っています。
    中材では手術室への新規器材の導入の際は、外部から講師を招いた勉強会を必ず行っています。また、スタッフ自身の理解度を深める目的で各人がテーマを決め講師となってレクチャーする勉強会を年3~4回実施しています。さらにICTと連携して医療安全や感染対策に関する院内研修も定期的に開催しており、とりわけ現在はコロナ禍における個人防護具の着脱方法に重点を置いた教育に力を入れています。中材ではこうした教育機会を年間30回ほど設けています。

JCI更新を糧に医療の安全と質のさらなる向上を

  • JCI更新を終えるたびに、次の更新に向けて医療の安全や質をより高めるために、PDCAサイクルを回しながら継続的に課題の抽出と改善に取り組んできました。
    2018年の2回目の受審後は、滅菌物を払い出した後の各部署における安全性の担保を課題にしました。各部署で保管・管理する滅菌物をランダムに抽出し、検査室の協力を得て有効期限間近あるいは期限切れの滅菌物の菌培養を1年間実施しました。結果的に菌は検出されませんでしたが、仮に検出された場合は、改善策を検討して、実行し、検証する必要があります。この取り組みは、中材スタッフのみならず各部署の滅菌物に対する安全性の意識を高める効果をもたらしました。
    当院が JCI 認証を目指したきっかけは「患者さんの安全性の確保」を第一義に掲げたことにあります。そこには病院組織や職員が何をすべきかを追求する姿勢が求められ、結果的にスタッフには積極的に学ぶ意欲が芽生え、各人が常に患者さんの立場に立った問題意識を持つようになりました。滅菌の質の保証は絶対的なものであり、保証されなければ手術部位感染(SSI)が起きるかもしれないことを我が事として考えることが重要です。JCI受審を契機にこうした考え方ができる風土が現場に根づいたように思います。
    JCI受審は病院全体で取り組むため、一体感が生まれますし、認証されれば職員はやりがいと誇りを持つことができます。また、JCI受審を契機に滅菌物について積極的に他の部署へアピールできたことで、院内での中材や滅菌物の認知度が高まり、そのことが中材スタッフのモチベーションを押し上げ、好循環をもたらしました(図5)。

  • 図5 中央材料室の目標の掲示

    図5 中央材料室の目標の掲示

    目標をチーム内で共有し、目標達成に向け個々が役割を担っている
       
       
       

効率化のためにトレーサビリティシステム導入を検討

当院では滅菌履歴を専用用紙に手作業で記録していますが、この方式を廃止して、データ管理できるトレーサビリティシステムの導入を現在検討しています。本システムの導入によりリコールへの対応や感染発生時のトレースが迅速に実施できることが期待されますし、適正材料数が明らかになることで無駄が省け、コストダウンにつながります。
また、中材スタッフや手術室看護師は処理工程ごとに器材の数量を確認する必要がありますが、昨今は借用器材が増加しており、確認業務に多くの時間が割かれているのが現状です。こうした問題を解決するためにもトレーサビリティシステムを導入して作業の効率化を図ることができればと考えています。

滅菌業務を含めた感染対策は一部署で完結するものではありません。感染の問題を解決するためには院内の様々な部署や職種が日頃からコミュニケーションを図り、情報共有しながら連携して対策を推進していく必要があります。そのために大切なことは、多職種が互いの業務を理解し、尊重することであり、そうした思いやりが病院全体に醸成されることが医療安全や質の向上を支える大きな力になると確信しています。

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取材:2021年8月 足利赤十字病院にて

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