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医療用製品
専門を活かす役割分担で品質保証を向上

専門を活かす役割分担で品質保証を向上

  • 再使用可能医療機器(RMD:Reusable Medical Device)は安全性を担保した上で確実に医療現場へ提供されなければならず、そのためには適切な品質管理が欠かせません。北海道大学病院 物流管理センター 材料室では、部門管理者とは別に品質管理担当者を配置して、専門性に応じてそれぞれの役割と責任を明確化することでRMDの品質保証に取り組んでいます。
    そこで今回、役割分担による業務の専門化に至った経緯、それに基づく滅菌保証や品質保証への取り組み、さらには今後の展望について、看護師長 池端明美氏と第1種滅菌技師で品質管理担当の石田克之氏のお二人にお話をうかがいました。

  •     池端 明美氏 北海道大学病院 物流管理センター 材料室 看護師長       
    池端 明美氏
    北海道大学病院 物流管理センター 材料室 看護師長
  •     石田 克之氏 北海道大学病院 物流管理センター 材料室 品質管理担当 第1種滅菌技師       
    石田 克之氏
    北海道大学病院 物流管理センター 材料室 品質管理担当 第1種滅菌技師
  • 5つの委員会活動で材料室業務を活性化

    当院は医科31科、歯科12科の診療科、922床を有し、高度先進医療を提供する地域基幹病院で、年間手術件数は約8,200 件(2021年度)にのぼります。
    材料室は物流管理センターの一部門に位置づけられ(図1)、スタッフは看護師長・副師長を含む看護師3名と看護助手3名、技術職員が2名(うち、1名はMEセンターから出向)の計8名の病院職員と、32名の委託職員で構成されています。当材料室では3名が第1種滅菌技師、2名が第2種滅菌技士の資格を有しています。
    材料室の業務としては、手術室や病棟、外来、検査部門など院内全体のRMDの洗浄・滅菌、内視鏡室でのスコープ洗浄、歯科外来での歯科印象トレー洗浄などを行っています。
    業務は分業制を採用しており、洗浄エリアは委託職員、組立および既滅菌エリアは病院職員と委託職員で行っています。当材料室の特徴として5つの委員会(学習委員会、リスク委員会、広報委員会、防災委員会、感染委員会)を設け、全員がいずれかの委員会に所属して委員会活動をしており、材料室業務の活性化につなげています。例えば広報委員会では数ヵ月に1回「サプライ通信」を制作・発行し、他部署への情報発信を通して、材料室の活動への理解に注力しています(図2)。

  • 図1 北海道大学病院 物流管理センターの組織

    図1 北海道大学病院 物流管理センターの組織

  • 図2 材料室から発信している情報紙(一部抜粋)

    図2 材料室から発信している情報紙(一部抜粋)

専門性を活かしたコンビネーションで迅速なリコール対応

  • 品質管理担当者としての対応

    当院では滅菌効果の判定方法の一つとして3時間判定のBIを使用していますが、リコールが発生するまではBIの判定を待たずにRMDを供給していました。2022年4月のある金曜日の夜間、滅菌処理されたRMDがいつも通り判定を待たずに供給され、月曜日に判定確認を行ったところ、陽性結果を示すBIが1つ判明しました。そこで、直ちにリコールの手続きを行い、看護師長に報告しました。
    前年に材料室に新設の品質管理担当に任命された私はリコールの原因を調べるとともに、現場の滅菌状況を再確認しました。原因は、滅菌器から取り出したBIを冷まさずに培地アンプルをクラッシュしたことによるインジケータ容器の破損でした。培養液が漏れた状態で培養ウェルに差し込んだため陽性判定を示したものと考えられました。このリコールを機に24分判定の3M™ アテスト™ 超短時間判定用生物学的インジケータ(以下、短時間判定BI)を採用することになりました。BIの切り替えにあたっては、すべての滅菌物を対象とするのではなく、3時間判定のBIと併用しながらいくつかのパターンを考え、それぞれのコストを試算しました。コスト面での資料が揃ったところで、短時間判定BIの導入を用度課に申請し、導入が認められました。

  • 材料室看護師長としての対応

    材料室管理者である看護師長として、私は速やかに医療安全管理部を通してインシデントレポートを提出しました。並行して該当診療科の医師と対応を話し合い、感染制御部とも調整を行いました。
    当時の材料室の運用では、仮にBI判定前に供給して、その後に陽性が確認されたとしても対象器械を回収できるとの判断から3時間判定のBIを使用していました。しかし、実際にリコール事例が発生したことで、従来の運用では滅菌の質保証を保てないことが明らかになりました。そこでまずは、夜間に滅菌処理する手術器械を短時間判定BI に切り替えるところから始めました。その後、昼夜問わずすべての手術器械のBI判定については、短時間判定BIを導入して、運用を抜本的に見直しました。
    今回の一連のリコール対応は、材料室スタッフがそれぞれの立場で役割を自覚し、専門的な知識を活用したことで実現できたと考えます。専門を活かす役割分担が機能し、各人がリコールの検証や他部署との調整を行い、その後のレポート作成も分担して仕上げました。当材料室ではリコール発生以前の2020年7月に品質管理担当を新設しており、第1種滅菌技師の資格を持つ石田氏を担当者に任命して現場への権限移譲を大胆に行っていました。その一方で看護師長である私は他部署との調整や予算確保などに専念しました。こうした専門性に基づく役割と責任の明確化を土台とした材料室の連携体制がリコール対応においても功を奏したと自負しています。

「餅は餅屋」管理者と専門家の両輪で質保証の担保へ

  • 品質管理担当の立場から

    当院の滅菌業務は分業制を採用しているため、病院職員の私は組み立て業務専属でした。そのため他の業務経験を積む機会がなかったのですが、洗浄・滅菌業務の知識を深めたいとの思いから滅菌技士・師の資格を取得しました。
    品質管理担当に任命された2020年当時からリコール発生時の対処について検討を重ね準備していた甲斐もあり、2022年に発生した実際のリコール対応はフローに基づいて迅速に行うことができました。また、リコールの原因がBIの取り扱いの不備であったという反省を踏まえ、直ちにBIについての学習会を開き、材料室スタッフにBIの取り扱い方について再教育を行いました(図3)。学習会では実際にスタッフの手技を確認したり、根拠と紐づけながらBIの取り扱い方法を伝えたりすることに重点を置くことで、感覚的に捉えるのではなく理論的に理解する良い機会になったと思っています。
    また、SOP(標準作業手順書)の整備にあたっては、RMDや包装材の素材や形状、重量、積載条件などの影響について2つの試験を行い、科学的な根拠を示しながら作成しました(図4)。
    滅菌物の品質管理においてバリデーションは極めて重要な位置づけにあると考えているため、蒸気滅菌器とウォッシャーディスインフェクター(WD)については「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021(日本医療機器学会)」を参考に、稼働性能適格性確認(PQ:Performance Qualification)も実施しています。今後は「医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール(日本医療機器学会)」を用いて、材料室の業務を客観的に評価していく体制づくりを進め、滅菌の質保証のレベルアップに努めていきたいと思います。

  • 図3 BIの取り扱い方法を含めた学習会資料(一部抜粋)

    図3 BIの取り扱い方法を含めた学習会資料(一部抜粋)

  • 図4 SOP整備時に実施した試験(一部抜粋)

    図4 SOP整備時に実施した試験(一部抜粋)

材料室看護師長の立場から

  • 私が材料室の看護師長に着任した2019年は、ちょうど蒸気滅菌器とWDの更新年にあたっていました。当院では機器の更新手続きは材料室 看護師長が担当することが慣例になっていたため、着任早々、右も左もわからないまま私は大仕事に直面することになりました。スケジュール調整や仕様書作成、入札説明会や各種委員会を通じた周知など、与えられた業務は専門性の高いものばかりで、洗浄や滅菌の専門知識が乏しい私にとって到底対応できる業務ではないというのが率直なところでした。
    WDに関しては専門知識に長けた職員がいなかったため、やむなく私が仕様書の作成を担当することになりました。WDの機種選定では、洗浄エリアのスペースや作業動線、WDに搭載できるRMDの処理数、1サイクルの時間、待機時間などを参考に検討しました。仕様書は、他院や他部署から情報収集したり、研究会に参加したり、用度担当者やメーカーの協力を得るなどして、約3ヵ月かけて作成し、各種委員会を通じて院内に機器更新を周知しました。

  • 表1 材料室 看護師長の役割

    表1 材料室 看護師長の役割

  • そして、機器入れ替えの日程が決まり、蒸気滅菌器は2020年の年末年始、WDは翌年5月のゴールデンウィークに行うことになりました。しかし、工事直前に道内のCOVID-19陽性妊婦を受け入れることが決定したため、緊急帝王切開の増加を想定して工事期間中の手術器械の調整や、帝王切開セットの追加が急遽必要となりました。
    また、工事期間中は、道外も含めて多くの工事関係者が病院に出入りするため、感染制御部に相談しながら感染対策を講じました。例えば、工事関係者には2週間前からの体温管理表の提出、現場での適切なマスク着用、食事・休憩時の黙食、ゴミの持ち帰りなどを依頼しました。しかし、工事期間中の当直時に現場を確認してみると、マスクを正しく着用していない作業者が見受けられたため、正しいマスク着用方法のポスターを貼って注意喚起し、感染対策の徹底を工事関係者に改めて依頼しました。
    材料室着任早々に蒸気滅菌器とWDの機器更新を経験したことで、専門性に重きを置いた材料室の役割分担の必要性を痛感しました。洗浄・滅菌業務に関連する他部署との調整や工事関係者への感染対策の依頼など対外的な活動は、看護師長の役割と考えます(表1)。一方で、仕様書の作成や各種委員会での説明などは、「餅は餅屋」で、業務ごとにその道の専門家に任せるのが本来あるべき姿です。材料室に品質管理担当を新設し、専任の担当者を置いたのもその一環でした。
    今後の目標は「モノ言う(言える)材料室」です。これは今年の材料室のスローガンにもなっています。安全で確実なRMDを材料室から提供できてこそ、患者さんに安全な医療が提供できるわけです。「モノ言う(言える)材料室」であるためには他部署に向けてエビデンスに基づいた意見や助言ができなければなりません。そのためにも専門知識が豊富な人材が適切なポジションで活躍することが重要であると確信しています。材料室は管理者である看護師長と滅菌業務の専門家集団との両輪で成り立つ部署だと考えます。


取材:2022年8月 北海道大学病院にて
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