~頚椎固定具(フィラデルフィアカラー)、ギプス、シーネのエッジ部分への対策を実践する~
日本医科大学千葉北総病院
看護師長 褥瘡管理者
皮膚・排泄ケア認定看護師
渡辺 光子 先生
頚部の術後固定等で使用する頚椎固定具フィラデルフィアカラー(以下、フィラデルフィアカラー)の装着中に、装具のエッジ部分にMDRPUが起きやすいことを実感されている方も多いと思います(写真1,2,3)。
当初、当院ではエッジ部分にガーゼを挟んで対応していた時期がありました。ガーゼは、どこにでもあり使いやすいのですが、「ズレる」「蒸れる(汗でガーゼが湿ってきて皮膚が浸軟する)」「面ファスナーにくっつく」そして「クッション性がたりない」などの問題がありました。
写真1 頚部
写真2 下顎部
写真3 後頭部
ある時、現場のスタッフナースから、ガーゼの代わりに3M™ レストン™ 粘着フォームパッド製品番号:1563L(以下、粘着フォームパッド)を使ってみてはどうかという提案がありました。粘着フォームパッドは通気性のあるスポンジに粘着剤がついている製品で歴史も長いのでご存知の方も多いと思いますが、その提案は粘着面を皮膚側に貼るのではなく、フィラデルフィアカラー側に貼るというものでした。これは、後述のとおり院内ではすでにギプス・シーネのエッジを保護するために実践していた方法ですが、それを頚椎固定具にも応用してはどうかというアイデアでした。実際に試してみたところ、ガーゼを使ったときの課題であった「ズレる」「蒸れる」「面ファスナーにくっつく」「クッション性がたりない」などの問題は、ほぼ解消されました。
ギプス・シーネ固定時のMDRPU対策の実績をふまえて、フィラデルフィアカラー使用時も、同様の方法を展開したのが2010年のことでしたので、かれこれ10年近くMDRPU対策に取り組んできたことになります。当時はまだ、MDRPUのガイドラインやベストプラクティスなどは出ていない時代だったので、試行錯誤の中で一つ一つ対応策を見出して検証していくことを繰り返しました。
フィラデルフィアカラー対策の粘着フォームパッドの使い方は、エッジ部分に粘着フォームパッドを貼り付け、さらに後頭部の突起があたる部分を囲むようにクッションとして用います(写真4)。
ただし、粘着フォームパッドを使うだけでMDRPUが予防できるわけではありません。フィラデルフィアカラー使用時には、①「適切なサイズの選択」、②「スキンケア」、③「ポジショニング」の3つがMDRPU予防の重要なポイントです。
①の「適切なサイズの選択」については、頚周囲サイズだけでなく、高さの選択も必要です。
②の「スキンケア」については、発汗量や痰などの分泌物が多いと、頚部の皮膚が浸軟し皮膚損傷を起こしやすくなります。少なくとも1日1回は慎重に装具をはずし、皮膚の観察と保清を行ったうえで、撥水性皮膚保護クリームを塗布するなどのスキンケアを行います。
③の「ポジショニング」については、頭部を両側から支えるように毛布をうまく活用してポジショニングすることで、頭部が安定し、かつ後頭部に体圧が集中するのを防ぐことができます(写真5,6)。フィラデルフィアカラーを使用する患者さんは、外傷での頚椎損傷など重症患者が多いため、自分で頚部を支えたり、良好な姿勢を保持することができないケースが殆どです。そのため頭部が左右どちらかに傾きやすく、姿勢が崩れることによる“ズレ”もまたMDRPUの発生要因となります。正しいサイズの装具を選んでいても、ずれてしまっては意味がありません。「ポジショニング」は装具による圧迫やずれを最小限にするための最重要ポイントといえます。
当院では、これら3つのMDRPU予防の原則を全て行ったうえで、さらに粘着フォームパッドによるエッジの保護を実施したところ、ICUにおけるフィラデルフィアカラー装着中のMDRPU発症が大幅に減少しました。
平成30年度の診療報酬改定において、褥瘡ハイリスク患者ケア加算の対象項目として一部のMDRPUが追加されました。その条件は、①ベッド上安静であって、②皮膚に密着させる医療関連機器の長期かつ持続的な使用が必要であるもの、とされ、長期の解釈としては、一週間以上の装着が目安として示されました。
MDRPU対策としての具体的な事例は文面には入っておりませんが、褥瘡リスクアセスメント票(別紙16)の中に、「医療用弾性ストッキング、シーネ」が記載されているので、シーネ使用時のMDRPU対策についても触れておきます。
当院でもシーネ使用時のMDRPU対策に粘着フォームパッドを使用することがありますが、フィラデルフィアカラー使用時とは異なる注意点があります。シーネにおいてはエッジ部分だけでなく、シーネの内側に粘着フォームパッドを貼ってクッション効果を期待する場合があります。その際、粘着フォームパッドの厚みによって、本来の装具装着の目的である“固定力”に影響が出ないかをアセスメントする必要があります。粘着フォームパッドを装具と皮膚の間に用いることで、クッション性を得る反面、反発が生じたり、密着を妨げるリスクがあるので、事前に医師とのコンセンサスを取っておくことが重要です。よって、シーネの内側に貼る場合には、より綿密にケースごとに医師と検討することが必要です。その上で対策をすることは有用だと思います。
フィラデルフィアカラーは、救命救急外来で装着を開始する患者さんが約9割を占めます。よって、救急外来の師長に理解をいただき、初期装着の場面において対策が取れるよう救急外来の看護師に対する教育を行なうことで手順の標準化を図っています。 MDRPU対策に関する予防ケア手順は、褥瘡対策の一貫として、褥瘡対策委員会が作成したものを、看護基準委員会の承認を得て、院内看護手順としてマニュアルに組み込んでいます。なお看護手順は書式規定に沿って文章で作成しますが、よりわかりやすく、活用を促進するために、具体的な内容については、図表入りの手順書を「褥瘡対策マニュアル」や「ポケットマニュアル」に記載しています。今回ご紹介したフィラデルフィアカラーのエッジ部分への粘着フォームパッドの使用は、院内手順として浸透しました。
MDRPU対策には、リスク管理の視点が不可欠です。基本的には、外力低減ケア(適切なサイズや素材の選択、フィッティング、圧迫やずれの回避)、スキンケア、全身管理、患者家族や医療スタッフへの周知と教育などが必要とされています。安全に医療を提供するために、MDRPU対策を多職種で共有し連携して取り組んでいくことが大切です。