昭和大学横浜市北部病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
山根 麗子 先生
一旦皮膚トラブルが起こってしまうと、使える粘着製品の選択肢が限られるので、皮膚への負担が少ない粘着製品性能が基本と考えています。その中でも当院が一番重要と考えた製品性能は「3日間確実に固定ができること」でした。ところが、当時、ドレーン類の固定時に、固定力が弱くテープが剥がれる、テープを剥がした時に皮膚剥離、水疱形成、掻痒感があるという課題が散見され、その要因を整理してみたところ、「製品性能に起因する課題」「使用方法に起因する課題」「教育に起因する課題」の3点に集約できました。この要因を整理したときのキーワードは多面的視点でした。「粘着性伸縮包帯」は、院内全体で横断的に使用される製品なので、院内で横断的に活動する人間の視点が重要と考え「感染管理認定看護師(ICN)」、「医療安全管理者」にも加わってもらい、私(皮膚・排泄ケア認定看護師)と併せて合計3つの視点で分析整理したことで、多面的な整理をすることができました。(表1)
表1
製品性能に起因する問題点 | 使用方法に起因する問題点 | 教育に起因する問題点 | |
皮膚・排泄ケア認定看護師 | ・テープが濡れると剥がれやすくなり、皮膚も浸軟する為、発赤、掻痒感や皮唱に糊が残存する。 |
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感染管理認定看護師 |
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・適切で確実な固定も血流感染対策に重要であることの周知が不十分。 |
医療安全管理者 | ・固定力が弱い。(胸腔ドレ ーンで自然抜去が起きてしまった) | ・手順に則り重ね貼りをした時に、剥がれる時がある。 | ・医療安全的な視点(抜去事故の防止等)での適正使用の意識の周知徹底が不十分。 |
課題が明確になったことで、それぞれに対する対策も検討しやすくなりました。課題解決のための対策は以下です。
1.「 製品性能に起因する課題」については、リンクナースを巻き込み、製品特長(撥水性、通気性、圧着することで粘着力が上がる)や適正使用方法を各病棟に浸透させる事
2.「 使用方法に起因する課題」については、今までの慣習を一掃することが一番のポイントです。とはいえ、マニュアルを再度作成して配布しても、過去の経験からしっかりと見ないと予測できたため、手技の徹底は、マニュアルの配布だけに頼らず、実際に各病棟などに出向いて、やって見せる事
3.「 教育に起因する課題」については、医療安全、感染管理、医師、リンクナース、メーカーを巻き込み、適正使用の教育を実施し、その適正使用を徹底するために、院内教育を3 回/年、導入する事
現状把握と改善度の確認のために4 回にわたりアンケート調査を実施しました。1. 製品変更前、2.変更して1 ヵ月、3.変更して3カ月、4.変更して1年後にアンケートを実施し、そのアンケートから得られた情報をリンクナース会で情報共有しました。製品が変わると、「使いにくい」という声が必ずと言っていい程上がってきます。これを解決していくためには、その使いにくい原因を追及することが重要と考えています。原因を追及すると、製品特長の理解不足や適正使用ができていないケースが多くみられました。変更して1 ヵ月、3 ヵ月後のアンケートの時点で、適正使用がなされていなかった事が分かったので、その都度、個別に適正使用を指導しました。すると1年後には適正使用されるように変化していったことがアンケートの数字で明確にわかりました。これは、適正使用が分かり、問題点を解決できると実施する側もされる側も非常にモチベーションがあがります。時間を要しましたが、根気強く、教育を行っていくことが重要と実感しています。
4 回のアンケート調査を行いましたが、アンケート項目は最初にもっと練るべきだったかもしれないと反省している点もあります。後々、項目を調査追加することになってしまい、最初から同じ調査項目で統一して実施できていたら、その後の解析がわかりやすかったと感じています。
医療安全管理者、感染管理認定看護師、皮膚・排泄ケア認定看護師で情報を共有
課題だった3つの視点での変化を表2に抽出します。
表2
対策後の変化
製品性能 | 使用方法 | 教育 |
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以上の項目の徹底により、 皮膚の赤み、 皮隣剥離、 水疱、 掻痒感という皮膚トラブルは ゼロとなった。 |
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剥離紙のライン部分の切れ目を入れて 引っ張る
中心の剥離紙を剥がす
手袋装着時でも操作しやすい
製品変更を行う時、一人では院内を動かせません。今回の粘着性伸縮包帯に関しては、適正使用しないと皮膚トラブルが起こりますが、その対処方法や知識を一番持っているのは、皮膚・排泄ケア認定看護師なのでリーダーシップを持って活動をしなければならないと考えています。とはいえ、前述のとおり、異なる視点での意見も同じように重要なので、課題の抽出段階から、製品変更後の徹底まで、医療安全、感染管理、医師、メーカー等と協働し、他部門との密な連携は非常に重要でした。また、リンクナースの働きも大きかったです。病棟全体に教育を行っていく事に関しても、協働することでそれぞれの立場での課題が明確になり、お互いに課題解決に向けての意識も高まったので有用であったと感じています。
コストの懸念に関しては、確かにコストダウンは必須となってきていますが、ただ、課題を解決する為の対策に投資し、その対策により改善できた効果を比較し医療材料委員会へしっかり伝えていくことが重要と考えています。そのためのエビデンスとして、3つの要因を3つの視点で分析やアンケート結果は有用でした。
<末梢静脈カテーテル>
・撥水性の特長を活かし、患者が手を洗ったときでも拭けばすぐ乾いた状態を保つことができる
・粘着剤が全面に塗付されておらず、通気性がある事の特長を活かし、皮膚が浸軟することが減った
・剥離紙の剥がし方を周知させることで、手袋を装着したまま操作することができる
<腹腔ドレーン>
・Ω固定を徹底させる
・圧着する事で、重ね貼りが可能となるので、圧着を徹底させ、重ね貼りによる剥がれが減った
<経鼻チューブ(栄養チューブやイレウス管など)>
・頬部に貼付する際はΩ固定を徹底させる
・経鼻チューブの場合は、1カ所、イレウス管の場合はチューブの重さがあるので、2カ所での固定と切れ込みを入れ、“あそび”を持たせる事で、引っ張られて剥がれる事を予防している