救急外来には、交通外傷、下血、吐血といったすでに出血のある患者さんが多数搬送されてきますが、それ以外に処置中に突発的な吐血や出血をする患者さんもいます。こうした状況下で時間と闘いながら吸引や気管チューブやドレーンの挿入、熱傷時の洗浄などの救命処置を迅速に行わなければいけないため、救急現場は血液・体液飛散による曝露リスクが極めて高い特殊な環境と言えます。
したがって、私たち救急スタッフは救急処置のあらゆる場面に血液・体液飛散リスクがあると想定し、ホットラインが鳴って患者さんが病院に搬送されるまでの間に手袋、エプロン、マスク、眼の防護具といったPPEをあらかじめ装着して待機するようにしています。
救急外来から高度救命救急センターに移動してきた患者さんの状態はある程度落ち着いていますが、熱傷などの処置は継続して行うので必ず眼の防護を含め、PPEはフル装備で着用するようにしています。
図1 皮膚粘膜曝露の実態(文献1より改変して作成)
以前はゴーグルを1人に1個支給していましたが、使用しない時の置き場所がなく、管理に困る点が問題でした。そこでフェイスシールド付きマスクをフロアに設置したところ、眼の防護具として少しずつ定着するようになりました。
しかし、救急のスタッフは常時マスクをつけているので、フェイスシールド付きマスクを着用するには、一旦マスクを外すかマスクの上に二重装着することになります。現実的にはマスクをつけかえる時間的余裕はなく、二重装着していますが、処置後は廃棄しますからコストの面で非常に無駄が生じていました。
アイガードであれば、すでに着用しているマスクの上に簡単に装着できることから時間もコストも大幅に削減できます。それとアイガードは箱がコンパクトですから、どこにでも設置できます(図2)。一刻を争う救急現場においては、すぐに取り出して手軽に装着できることはPPE装着の遵守において重要な条件です。その点でアイガードは条件を満たしていますから現場スタッフからも好評で、熱傷ケアや吸引をはじめとする救急処置で使用しています(図3)。
基本的に曝露リスクが起きそうな場面に対してスタッフにアナウンスすることで注意喚起に努めています。たとえば、「吐血して出血が激しい患者さんが搬送されてくるので、しっかり眼を防護する準備をしましょう」というように、間近に想定されるリスクをスタッフ間で共有できるように伝えていくことが効果的であると思います。
救急外来では初療時のPPE着用をより徹底したいと考えています。外傷で搬送される患者さんは、すでに多量に出血している患者さんもいますが、出血のない患者さんが突然吐血する場面もあります。救急外来ではこうした予測不能な場面が非常に多いので、アイガードをはじめとする眼の防護具の着用を徹底して、あらかじめ眼を守る備えが大変重要になってきます。また、高度救命救急センターでは、抜管時のPPE着用の徹底が課題です。抜管時の曝露リスクは高いですが、ほとんどの場合、抜管するタイミングは医師と相談しあらかじめ計画されており、眼を防護する時間的余裕はありますからPPEのつけ忘れのないように徹底していきたいと思っています。
救命救急は時間が勝負です。一刻の猶予も許されない緊迫した状況下で患者さんの救命のために多くの処置が行われます。しかしそこではスピードが最優先となるためスタッフや器材の動きも激しく、作業は繁雑にならざるを得ません。こうした環境では、血液・体液の飛散リスクとそれによる曝露リスクは非常に高くなります。したがって、曝露リスクが高い場面をできる限り想定して眼を守る準備を意識づけながら PPEの着用を徹底することが大切であり、そのための環境づくりも重要だと思います。
収録:2017 年7 月10 日 岡山大学病院にて
引用文献
1) 職業感染制御研究会.エピネット日本版サーベイ2015(JES2015)針刺し・切創及び皮膚粘膜曝露.