まず、ウインドウフィルムのスプライスは、どのようなケースで発生するのか、当社の技術担当者に聞きました。
「ウインドウフィルムは、製品ごとに、1016㎜ 1270㎜ 1524㎜など、決まった幅があります。
それらの製品を、貼付するガラスの大きさに合わせ、カットして使用します。しかし、大きな窓に貼る場合、幅が足りなくなることがあります。その場合は、2枚以上のフィルムを並べて貼ることになります。その際に発生するつなぎ目が『スプライス』です。
建物の設計担当者から『1枚のガラスには、なるべくフィルムを1枚で貼りたい』というご要望を聞くことがあります。
これは、大きな窓にフィルムを2枚以上並べて貼る場合、スプライスが窓の真ん中あたりに入ることが多いため『目立ってしまうのではないか』と心配されるからだと思います。
とくに、自動車の販売店や、コンビニエンスストアなどの店舗では、道路に面して透明な大きな窓が設置され、道行くお客様に対して、店内を明るく、きれいに見せることが重視されます。そのような建物では、ガラスの真ん中に線が入ることへの不安から、フィルムの採用を躊躇されるケースも見受けられます」
このように、フィルムを2枚以上貼る場合の最大の不安は、スプライスによる外観上の問題。では、スプライスがあることで、見た目にマイナスの変化があるのでしょうか。
「貼ってみれば一目瞭然なのですが、透明ガラスにウインドウフィルムを2枚並べて貼っても、スプライスはほとんど目立ちません。もちろん、近くで窓の表面を見ればわかるのですが、離れたところから室内を見る際、また室内から外を見る際に、この線を意識することはほとんどないと言って良いと思います。
というのも、窓を通してその先のものを見る場合、目の焦点はガラスの表面ではなく、ガラスの向こうの対象物に合っています。ネット越しに望遠カメラでグラウンドを撮影する時に、ネットが映らないことと同様、人間の目でも、窓のスプライスを知覚することは少なく、視界の障害になることはほとんどありません。
実際、ウインドウフィルムを2枚以上並べて貼付した利用者の方々から、『スプライスが気になる』という声を聞いたことはありません」
スプライスがあることによって、窓の透明感が低下することはほとんどないようです。しかし、条件によって、ウインドウフィルムを並べて貼る際、まれに外観上の問題が発生することもあるそうです。
「透明フィルムではなく、カラーが入っているフィルム、金属層があるフィルムは、フィルムに『蒸着』や『コーティング』を行うことで、その色やデザインを実現しています。そのようなフィルムでは、フィルムの左右の端に、色味の『むら』ができることがあります。色味の異なる端同士を並べて貼付した場合、同じロットの製品であっても、色のギャップが生じることがあるのです。この左右の色の違いは、1枚のフィルムを見ただけではそれほど目立ちません。しかし、2枚を並べた場合は人間の目で明らかに認識できるものとなります。
このような事態を防ぐためには、フィルムを貼付する際、色味が同じ端同士を並べることが必要です。色味にギャップがある場合、どちらかのフィルムの上下をひっくり返して並べることでぴったりと合うことになります。実際に並べて、少し離れて見ることで、色のギャップの有無はすぐにわかりますので、貼り付ける前に、その確認作業を忘れないようにしてください」
さて、スプライスに関連して、外観以外に、多くご質問をいただくテーマがもう一つあります。それはウインドウフィルムに求められる「安全性能」が確保されるのか、ということです。
「ウインドウフィルムに期待される性能として、地震による揺れや台風による物の衝突などでガラスが割れた際の、破片の飛散防止があります。飛散防止性能を持つフィルムを2枚並べて貼り付けた時、スプライスがあることにより割れ方が変わり、飛散防止性能が落ちてしまうのではないか、という不安を感じる方がいらっしゃいます。
ウインドウフィルムを使う大窓の多くは、道路に面して設置されています。そのような場所にある大きなガラスが割れて、破片が飛散・落下してしまえば大きな二次被害が発生することになります。つまり、フィルムを2枚以上並べて貼る必要のある場所の多くは、飛散防止性能が重視される場所でもあり、スプライスに関する不安も大きいということです。
そこで当社では、フィルムを並べて貼った場合の割れ方、飛散防止性能の低下の有無について、試験を行っています。
たとえば、地震の揺れなどによるガラスの割れを想定した『層間変位試験』や、振り子につけた重りをガラスにぶつけて割る『ショットバッグ実験』があります。飛散防止性能は、これらの方法でガラスを割った際の、落下したガラスの量、大きさ、貫通穴の大きさなどによって測ります。
当社では、いくつかのケースについて、スプライスがある状態でも飛散防止性能が得られることを確認しました。1枚だけを貼った時と比べて、割れ方に差はありますが、飛散防止性能は確保できています。フィルムの施工が適切に行われていれば、スプライスがあることによって飛散防止性能が落ちるということはない、と言って良いでしょう」